中小企業経営者の間でも評判の『下町ロケット』。直木賞作家、池井戸潤氏によるベストセラー小説はドラマ化され、高視聴率を記録した。小説・ドラマに出てくる弁護士のモデルが、鮫島正洋氏。中小企業の特許訴訟を巡る現実について聞いた。
鮫島さんは池井戸潤さんの小説『下町ロケット』に出てくる弁護士のモデルで、ドラマ化された際にも監修者として関わったと聞きました。現実は必ずしもドラマのようにはいかないと思いますし、大企業はもっと容赦ないという人もいます。実際のところ、知的財産権に関して中小企業は今、どのような立場に置かれているのでしょうか。
鮫島:1つ例を挙げるとすると、中小企業が原告となって特許訴訟を戦った場合、勝率はどのくらいか、ご存じでしょうか。内閣に設置された知的財産戦略本部が出している知財推進計画があり、その2015年版に詳しい最新の数字が載っています。

1985年東京工業大学金属工学科卒業後、藤倉電線(現・フジクラ)に入社し、電線材料の開発に従事。91年弁理士試験に合格。92年日本アイ・ビー・エム入社。知的財産マネジメントに従事しながら、司法試験の勉強をし、96年司法試験に合格。97年退社して司法研修所に入所。99年第二東京弁護士会登録、弁護士事務所で働き始める。2004年内田・鮫島法律事務所を開設。近著に、『技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス』(日本加除出版)『知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く』(共著、日経BP社)。(写真・菊池一郎)
大企業を相手取った特許訴訟の勝率は1割未満
これによると、まず、特許侵害訴訟件数の約6割は中小企業が提起しています。判決で見ると、中小企業の原告勝訴率は2割以下にとどまっており、対大企業の勝訴率は1割にも満たない状況です。ただし、勝てない理由も明らかで、それは事前の準備の入念さが大企業と中小企業では格段に違うからなんです。
大企業には必ず知財を扱う部署があります。訴訟となれば、まずはそこで1次検討をし、勝てるかどうかを分析する。勝てると思えば弁護士、しかも、特許訴訟に強い弁護士を雇って再検討していきます。そして、絶対に勝てると踏んだものしか、訴訟には持ち込みません。
一方、中小企業の場合は、何となく特許侵害されているようだとか、大企業に技術を盗まれたようだとか、曖昧な状況で、とにかく「悔しいからやれ」と、経営者が突っ走ってしまうことがあります。知財部がなくても顧問弁護士には相談するでしょうが、彼らは必ずしも特許に詳しいわけではありません。
要するに、中小企業が大企業に特許訴訟で負けてしまうのは、法的に不平等な立場に置かれているからではなく、中小企業の知財リテラシーが低いことに原因があります。ですから、ここを上げていけば勝率はもっと高まる、と思っています。
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