介護付き有料老人ホームやグループホーム、訪問介護ステーションを運営するケア21(大阪市)。同社の創業社長、依田平氏に介護事業の現状と今後を聞いた。後編では、ますます進む少子高齢化社会に必要な仕事を考えトライする同社の取り組みを明かしてもらった。
ケア21では、定年制度を撤廃されたそうですが、この業界は離職率が高く、ケア21も例外ではありません。
依田:今、業界での離職率は17%、当社は16.8%です。ただ、当社は年間20~30の新規事業をつくっていますので、どうしても辞める人は多くなるのです。ですから、我々の数字はそれほど高くないと思っています。
辞める人が多いことよりも、人が増えていることがプラスだと考えています。最近は、56、57歳で入社してくる人が増えていますよ。多くの会社では60歳や65歳で定年になるので、その前に居場所をつくっておいて、そのままずっと働こうという考えの人が少なくないのです。
よだ・たいら ケア21代表取締役社長。1952年長野県生まれ。法政大学法学部卒業後、76年ぎょうせい入社、79年独立、84年エポアンドエディ社長を経て、93年学習塾、ヨダゼミイースト(現ケア21)を創業。少子高齢化を見越して福祉事業に転業し、商号変更。社会のニーズと持ち前の豊富なアイデアで事業を拡大中。グループで宅食サービスを手掛ける美味しい料理会長、障がい者向けサービス等のまごの手サービス社長などを兼ねる。(写真:清水真帆呂)
夜勤をしてくれる 78歳の介護スタッフも
中高年にも介護の仕事は務まりますか。
依田:務まります。78歳で積極的に夜勤をしている人もいます。人それぞれですね。
高齢者の派遣事業も始めたので、彼らは3カ月に1度、健康管理のための体力判定試験を受けることになっています。その結果、弱いところがあれば、毎朝足上げの運動をしてくださいといったアドバイスをしています。また楽観的思考になってもらい、その後、プログラムで体力を維持し、上げながら働いてもらっているのです。心も体も元気になる派遣会社を目指しています。
もっと言えば、そうやって元気に働いている人も、いつかは介護をされる側に回りますから、そのときには当社のサービスを使ってもらえるので、従業員は増えれば増えるほどいいと考えています。
高齢者の派遣事業の他にも、ユニークな新規事業を手掛けていますね。
依田:高齢者のための巡回バス、「たのしいバス」もあります。年を取って車の運転ができなくなると、買い物や病院通いはタクシーに頼らざるを得なくなりますが、それではお金がかかりすぎます。だったら無料の乗り物を走らせようと考えました。
ただ、事業としてやるにはもうけなくてはなりません。そこで、地元のスーパーや薬局などにスポンサーになってもらっています。今、4台のマイクロバスを走らせています。まだ赤字ですが、恐らく軌道に乗ると思います。
依田:宅食サービス「おうちごはん」も始めました。
お年寄りは味わう力が落ちているので、おいしいものをおいしいと感じにくくなっています。でも、温かいものはおいしいと感じます。一般的な配食はセンターで調理して冷凍し、それを運んできて電子レンジで温め直して配るのですが、これではあまりおいしいとは感じてもらえません。
そこで当社では、自社の福祉施設で作った食事を温かい状態でお届けし、お年寄りの自宅の食器に盛り付けるサービスを始めました。10分間滞在するので、盛り付けしている間に話をしたり、ちょっとした洗い物などもします。人がいるところで温かいものを食べられる。これが私たちの宅食の売りです。
近いうちに不動産事業の免許を得たうえで、施設に入居した高齢者の自宅の整理整頓、場合によっては土地や家の買い上げ、転売、シェアハウス化にも取り組みます。葬儀も手掛けます。多様な葬儀のプランを用意し、何かあったときは誰に連絡するといったことまで含め、施設に入居される前に契約するような仕組みを用意します。
少子高齢化社会で重要になるのは幼児教育
将来的な話になりますが、今の介護を支える子供たちを育てる必要もあると考えています。そのために2016年に保育事業も始めました。
少子高齢化社会を支えるには、優秀な人材が必要です。そこで重要になるのが幼児教育なんです。「ヨコミネ式」というカリキュラムで、徹底的に運動などを鍛え上げる方式です。スポーツに堪能なのは脳が発達しているともいえ、鍛えた人材は1人ひとりが輝き、時代を切り開きます。保育の次は学校ということになるので、やはりいずれは教育事業に戻っていくのかな、という気はしています。
ところで今、当社には非常勤を含めて従業員が6500人ぐらいいるのですが、そのうちの8割ほどが女性で、未婚の方も多い。結婚はしたいんですがなかなか出会いの機会がありません。ですので、結婚相談所のような、結婚したい男性とのマッチング事業も具体的に進めています。
依田さんは、2035年には業界でナンバーワンを目指すとビジョンに掲げています。
依田:今はまだ誰がやっても介護事業は伸びます。ただ近畿圏では2030年、中部圏では35年、首都圏では40年に高齢者が減り始めると言われています。どんな業界の企業でも、その企業が本物であるかどうかは、需要が減り始めるときに分かると思っています。ですからそれまでに人を育て、強い組織をつくっていきたい。
「おうちごはん」は、利用者の自宅にある食器に盛り付けるユニークな宅食サービス
介護事業の利益率は3.5%が適正
依田:当社の介護事業は介護保険の始まりと同時にスタートし、近畿でナンバーワンになったと自負しています。サービス価格など、当社が基準になっている指標もあります。スタッフの待遇を良くすれば「ケア21がやるならうちもやらなくては」とマネをしてくれる同業者もあります。全国的には10番手ぐらいだと思いますが、さらに影響力を大きく持てるようになれば、業界全体を変えられると思っています。
厚生労働省は先日、介護事業者の利益率は平均で3.3%と発表しましたが、それぐらいが妥当だと思います。先日買収された同業者は、10%近くの利益率がありました。その裏側には、過度な合理化のような無理があります。私たちは介護事業については、3.5%ぐらいが適正だろうと考えています。
逆に言えば、利益率を上げるのは簡単です。人件費を減らせばいい。パートタイマーに格差を付けたり、正社員になるにはパートから始める必要があるといった条件を付ければ、簡単に利益率は上がります。でも、そういうことをやってしまうと、本当にいいサービスはできません。利益率は、介護ではない周辺の事業で高めていこうと思っています。
これから少子高齢化がますます進む世の中を支えていくのは、簡単なことではないと思いますが、適材適所で人を活用するという発想があれば光明はあると思っています。私たちは株式会社として、共生社会づくりにチャレンジしていきます。
今、依田さんが介護の現場に出ることはあるのですか。
依田:昔はやっていましたが、今はほとんど出ませんね。
日頃の社業以外の仕事としては、例えば忘年会に参加することです。忘年会に限らず飲み会では、社員からいろいろな良いアイデアがもらえます。ケアプランの作り方、帳票の良しあし、レクリエーションの重要性、様々なサービスの価格、食事の味と、現場からの具体的で多彩なヒントをもらえるので、それをすぐ改善につなげるようにしています。
「社長は来ないでいい、お金だけ出してくれ」ではなく、そうやって飲み会に呼んでもらえるというのはうれしいことです。
ケア21は、福祉事業の周辺で今後伸びる事業分野を医療、文化、教育と考え、これらの分野で新規事業を展開している
(この項終わり。構成:片瀬京子、編集:日経BP総研 中小企業経営研究所)
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