IT(情報技術)ブームで東京・渋谷がビットバレーと呼ばれていた2000年前後から、いくつものベンチャーが生まれ、そして消えました。熊谷さんは以前、「僕自身が『もうけよう』から『人を幸せにすることが大切だ』と頭を切り替えられたから生き残れた」とおっしゃっていましたが、転機はいつだったのでしょうか。
熊谷:最初はもちろん「お金をもうけよう」と思って創業するのですが、それでは、組織に人がついてこなくなる時期が訪れます。それは、自分が一人ひとりと直接対話でき、細かなニュアンスを伝えられる規模を超えたときです。

1963年長野県生まれ。91年ボイスメディア(現GMOインターネット)を設立、95年からインターネット事業を開始し、99年に独立系インターネットベンチャーとして国内で初めて株式を店頭公開する。2005年、東証1部に市場変更。同年、米ニューズウィーク社「SuperCEOs(世界の革新的な経営者10人)」受賞。著書に『一冊の手帳で夢は必ずかなう』(かんき出版)など(人物写真:柚木裕司)
一人ひとりの気持ちをくめれば、モチベーションもアップできるし疑問に答えることもできます。しかし、そこを超えた先には、伝えたいメッセージがストレートに伝わる、分かりやすい経営をする必要が出てきます。上場したのは僕が36歳になったばかりのときでしたが、30代前半の頃から、だんだんとそう感じていました。
シンプルな言葉で広く仲間に伝える
一人ひとりと直接対話できなくなるのは、会社がどのくらいの規模になったときでしょうか。
熊谷:それは経営者の力量によると思います。30人としかコミュニケーションをとれない人もいれば、100人とコミュニケーションできる人もいます。ただ、3桁のカベとよく言いますから、恐らくそのあたりにあるのでしょう。
GMOの場合は、あっという間にその3桁のカベを突破しました。
熊谷:そこで一度、「もうカベに当たったのだ」と気持ちを切り替えてしまうと、実にこれは楽な話です。カベを乗り越えた後は、100人が5000人になっても、何も変わらないですし、その頃には、正しく伝わる仕組みができているからです。
切り替えのタイミングで「人を笑顔にすることが大切」というメッセージを発しました。
熊谷:お客さんに喜んでいただくことが一番大切なので、それを笑顔という短い言葉に集約させました。お客さんに喜んでいただけると、商品やサービスをつくっている方も提供している方も、笑顔になれるし誇りが持てます。僕自身の経験でそういった実感があったので、この笑顔の循環をつくることが経営者の仕事なのだという結論に達しました。
お客さんに喜んでもらえないと、商品やサービスは長続きしません。20年間、いろいろなプロダクトを提供してきて、今、お客さんは800万件以上になっていますが、いいプロダクトを提供していないと、減っていってしまいます。プロダクト別に見ると、やはりいいプロダクトは伸びますし、そのチームははつらつとしていますね。
今、提供しているプロダクトは100以上あるので、その中での笑顔の度合いを比較すると、どういう経営をすべきかは見えてきます。
はつらつとしたチームを増やすため、どんなことをしましたか。
熊谷:どうしたらそういう状態が生まれるのかを考え抜いて、シンプルなキーワードにしました。“一番のプロダクト”を提供して、“一番喜んでもらえ”と、それだけです。
13文字とか、14文字より長い言葉では、メッセージとして伝わらないんです。例えば、うちのグループのキャッチコピーは「すべての人にインターネット」で13文字です。14文字以下だと心に残るんです。
しっかり研究したことはないのではっきりは分かりませんが、法則があるのです。“いちばんのプロダクト”とか“えがおのじゅんかん”とか、短くて、誰にでも分かりやすいですよね。
仲間が3桁のカベを越えた段階からは、会社が目指していること、やってほしいことをシンプルな言葉で、仲間に伝えることが大事だと思っています。
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