シチズン時計の代表取締役社長を務める戸倉敏夫さんとのご縁は、ある方の紹介で食事をご一緒したことだった。同席した社員に「よくやってくれた」とねぎらいがある一方、おしゃべりの合間に「しっかりやりなさい」とたしなめもある。温かさと厳しさを併せ持つ経営トップと感じた。
戸倉さんは、企業ブランドの価値を上げることに積極的で、“シチズンらしさ”を構築すべく、商品、店頭、広告などにわたるイメージ統一をはじめ、スイスのバーゼルでの展示会やミラノサローネへの出展をはじめとする海外へのイメージ発信など、さまざまな施策を打ってきた。2012年の社長就任以来、一貫して企業のブランド価値を上げることに力を注いできたのである。
今年4月に開業する「GINZA SIX」内で、世界初の旗艦店「シチズンフラッグシップストア東京」を構える。約300㎡の空間を使って、現在進めている「マルチブランド戦略」の全貌を見せるのに加え、イベントスペースや修理工房なども併設するという。1918年創業の老舗企業が世界市場を視野に入れ、企業をどう進化させようとしているのか、お話を聞きに行った。
(前回から読む)
ブランドステートメントは「BETTER STARTS NOW」
1973年シチズン商事入社。海外営業本部北米営業部長などを経て2002年同社取締役。04年シチズン時計執行役員。07年常務取締役、09年専務取締役。12年よりよりシチズン時計代表取締役社長。(写真:鈴木 愛子、以下同)
川島:「理念とブランドとが、きちんと紐付いていなかった」とおっしゃいましたが、どんなに良い理念でも、絵に描いた餅では意味が薄い。でも、そういう企業って実は多いと感じています。それで戸倉さん、理念とブランドをどうやって結びつけていったのですか。
戸倉:シチズンの企業風土をまずベースにしようと。たとえば自由闊達にものが言えるとか、まじめなものづくりや、チャレンジする精神といったことです。また、理念である「市民に愛され親しまれるものづくり」に徹すれば、法外に高価格な時計や、装飾性が過剰な時計、一過性の流行にのった時計などは、そぐわないということになります。
川島:なるほど、そうやって立ち戻っていくと、企業理念とブランドのかかわりが見えてきます。
戸倉:2014年には、ブランドステートメントして「BETTER STARTS NOW」を世界に向けて発信することにしました。これは「どんな時であろうと、『今』をスタートだと考えて行動する限り、私たちは絶えずなにかをより良くしていけるのだ」という企業の信念を表明したもの。
腕時計の未来を見据えるシチズンにとって、進化し続けることは最大の使命。それが世界中の市民に愛される時計を生み出すことにつながると考えているのです。
川島:「今」を起点に、より良い事を興せということですね。
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