「理念とブランドとが、きちんと紐付いていなかった」
川島:その際、シチズンというブランドは、どこに価値を置くべきと考えたのですか?
戸倉:僕は、ブランドというのは、基本的には付加価値、つまり明らかな独自性を持っていることととらえています。また、ブランド作りは、ヨーロッパが培ってきた領域と思ってきました。イタリアで小さな専門店との取引が3000件ほどあったのですが、それぞれに個性があって価値軸が立っている。そして、その店に対する信頼感を持った顧客が付いているのです。
川島:まさに、お店としてブランド化しているということですね。
戸倉:その店に置かれるシチズンの商品は、あるフィルターを通して選ばれたという意味で、独自性を持ったブランドと価値づけられていると思いました。そういった意識を全社が共有して、企業活動で表現していく必要があると強く感じました。
川島:では、シチズンという企業の独自性は、どこにあるとお考えですか?
戸倉:まさに、シチズンという社名そのものにあります。うちの会社は、世の中がまだ懐中時計主体の1918年に、高田馬場で尚工舎時計研究所を立ち上げたのが始まりです。そして1924年、最初に完成した懐中時計に、当時東京市長だった後藤新平氏が「永く広く市民に愛される様に」という意を込めて、シチズンと命名。それが後に社名になりました。
後藤新平氏は『市民とは単なる市民ではなく意思を持った人』、『自治とはよそになく市民の中にある』、『市民一人一人が市長である』など、市民という言葉に深く広い意味を込めた発言を多く残しています。そういった思想を土台にうちの企業理念は作られていて、「市民に愛され市民に貢献する」としているのです。
つまり、「市民に愛され親しまれるものづくり」を通じて、世界の人々の暮らしに広く貢献することを目指してきました。
川島:企業名そのものが企業理念と一致しているのはいいですね。
戸倉:ただ、この企業理念は前からあったもの。理念とブランドとが、きちんと紐付いていなかったのです。
*1月6日公開「sinceという言葉を使うのはやめなさい」に続く
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