東京・合羽橋にある釜浅商店を訪れたのは、この春のこと。昭和の匂いが残っている商店街を歩いていくと、周囲に馴染みながらも、個性が立った店が見えてくる。ここが、料理道具を専門とする釜浅商店。1908年創業というから、108年の歴史を持つ老舗だ。
社長を務める熊澤大介さんとは、ある方の紹介で知り合った。カジュアルな装いが似合っていて、動作や話しぶりの気風がいい。店構えはもちろん、置いてある商品や、従業員の立ち居振る舞いを含め、熊澤さんの思いが行き渡っていると感じた。
釜浅商店が扱っているのは、鍋や釜、包丁をはじめ、ボールやバット、ざるなど、毎日の料理を手伝ってくれる道具の数々。似たような顔つきの店が、最近増えているが、そういった流行りの店と釜浅商店は一線を画する。
では、どこが違うのか。料理するための“道具”――「使いやすさ」を考えた必要最適な形状に収まっていること。今の暮らしに合った調理のための工夫がされていることなど――に徹底してこだわっている。老舗ならではの矜持が、明快に伝わってくる。
聞けば、6月にパリのマレ地区にあるギャラリーで、展示会を行うという。日本の良き道具を海外に伝える活動も含め、熊澤さんの意図を聞きたいと思い、パリまで取材に出かけた。
パリで行った展示・販売イベントが好反応
川島:熊澤さんがパリで展示会を開くと聞き、物凄く興味が湧いて、とうとう取材にきちゃいました。ここ、素敵な展示会場ですね。ロケーションもマレ地区の真ん中で、おしゃれな人たちが集うところ。お披露目にはぴったりです。
熊澤:友人から声をかけてもらって、「Atelier Blancs Manteaux」というこの場で展示会を行うことにしたのです。でも、パリで展示会を行うのは、これで3回目なんです。
川島:えっ、既に2度もやっているのですか?
熊澤:はい。2013年にパリの「デザインウィーク」に参加し、2014年には、「NAKANIWA」という場で「日本の包丁とその背景」と題した展示会をやりました。
川島:熊澤さんが扱っているのは日本の料理道具。どうしてそれを、パリで紹介してみようと考えたのですか。
熊澤:合羽橋の店を訪れてくれる海外のお客さんを見ていて、予想以上に日本の料理道具に興味を持っていると感じたのです。それで、海外で売ってみたいと考えるようになりました。なぜパリかというと、食の領域では、何と言っても世界一。勝負するならここだと思っていたからです。
川島:今回の展示会は、5月23日から6月11日と3週間にわたる開催で、包丁研ぎのワークショップや炭火焼のセミナー、レストランとのコラボレーションディナーなど、たくさんのイベントも行います。
熊澤:実際に現物を見て、手にとってもらわないとダメだろうと思いまして。日本から約6000点の商品を持ち込んで、見せるだけじゃなく販売することにしたのです。ワークショップについては、包丁を研ぐとか、炭火を扱うということは、日本の料理人が昔からやってきた素晴らしい技。これを理解してもらうには、体験が一番と考えたのです。
コラボレーションディナーについては、パリでフレンチレストラン「Dersou」をやっている関根拓シェフにお願いしたところ、快く引き受けていただきました。それで、うちの道具を使ったディナーを、参加費50ユーロでやってみることにしたのです。
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