冬に「水着がほしい」というお客から見える生活提案

川島:では増田さん、目利きとはどういう人でしょうか?

「目利きを育てるために三越伊勢丹さんと組むんです」(カルチュア・コンビニエンス・クラブ 増田宗昭CEO)

増田:たとえば、リシャール・ミルという人は、「ル・マン・クラシック」というイベントのスポンサーをやっている人です。時計屋である彼が何より大事にしているのは、「昔のものを大切にして、クラシックカーを愛でて、友だちを大切にする」という価値観。それを、たくさんの人と共有するために、クラシックカーレースのスポンサーになっている。

 だから、彼が売っているのは、時計ではなくてライフスタイルなのです。そしてそのために、ありとあらゆるものを「見て」「聞いて」、コレクターの人たちとも「話して」ということをやり続けているのです。

大西:当社の社員にも言っているのですが、自分で外へ出て、遊んで、いろいろなものを経験し、インプットをたくさんした上で、自分が持っている力と組み合わせてアウトプットをして欲しいと。そういう人材に期待したいですね。

川島:ともすると、経営トップの方は「豊かな経験をして、どんどん新しい提案をしなさい」「若い人の新しい発想を育てていきたい」とおっしゃるのですが、社員の方からすると、「上司がそういう環境を作ってくれない」とか「目の前の仕事が忙し過ぎてそんな時間がない」とか「経済的な余裕がない」とか、さまざまな障壁があるものです。

増田:僕は、それを変えていくのが経営だと思っています。経験があろうがなかろうが、まずチャレンジしてみること。それが人を育てると信じています。

川島:太っ腹で良い会社に聞こえます(笑)。大西さんは?

大西:今の20代、30代の若手社員を見ていると、以前に比べて「いろいろな人に会う、いろいろな体験をする」ことに意欲的だと感じています。数年後に、彼らがマネジメントのポジションについたら大きく変わっていくでしょうし、そうなっていくことが必須だと感じています。企業で大事にしなければならないのは、何と言っても「人」ですから。

 その意味で言うと、どんなにネットが発達しても、お客様と販売員の接点はなくならないと思うのです。ネットでは味わえないようなことを、リアルな人間がどう行っていくかということです。

川島:リアルな接客ですね。単に懇切丁寧な対応ではなく、私の好みを瞬時に把握してくれて、思いもかけないような提案をしてもらえたら、とても嬉しいと思うのですが。

増田:それは、生活体験に根ざした生活提案とも言えること。僕はこれについて、ひとつ原体験があるのです。40年くらい前に、鈴屋というアパレル専門店の京都店の店長をやっていた時のこと、食堂で気になる会話を耳にしたのです。あるお客様が「冬なのに『水着は売っていないのですか』と聞いてきた」。

 それを聞いた途端、僕は「そのお客様は、冬休みにハワイに行く」とピンと来たのです。冬場に水着を買う人はいないと、その販売員は思い込んでしまっているけれど、そうじゃないと。お客様のことが見えているようで、まったく見えないないと感じたのです。

川島:なるほど。それは、先ほど大西さんがおっしゃった「自分の担当カテゴリーの中での目利き」で閉じていてはいけないというお話と通じますね。頭ではわかるのですが、実践していくのは、そう簡単なことではなさそうな…。

大西:でも川島さん、生き残っていくには、変わっていかなくてはいけない。当たり前のことです。

川島:やっぱり厳しいなぁ。