社長になって落ち着いた

川島:いよいよ最後の質問です。社長になって、何が一番大きく変わりましたか。

黒田:落ち着きましたね。

川島:えっ、意外です。何が落ち着いたのですか?

黒田:いや、社長になって、全部が自分の責任と思ったら、「大変だ」と言っている場合ではないし、そんな暇もないとわかったのです。昔は焦っていたなぁとも思いますね。「あそこもここもうまくいかない、どうしよう」と、ずっと追われている感覚があったのです。

 でも社長になってから、もう少し本質とも言える真因を見定める、いや、見定めなくてはならないわけで、そこさえ解きほぐせば周囲も自ずと変化してくる。そういう因果関係みたいなものが、割合と見えるようになってきて、落ち着いている感じです。

川島:視座がうんと広がったということですね。

黒田:広がったのか、あるいは高くなったのか、まだわからないですが。社長として、全責任を負う立場にあるわけですから、うまく行かなかったら自分に否があることが、もうはっきりしているわけで。大変さは増しましたが、開き直りもあるのか、腹を括りました(笑)。

川島:いい社長ですね。ただそれが、社内にきちんと伝わっていくのは、なかなか難しい課題です。社員は何人くらいいらっしゃるのですか?

黒田:国内で4,000人、海外で2,000人です。だから、そう簡単に伝わるものでもないと思っています。でも、少なくとも僕の姿勢としては、社員の人たちと話していく「対話」を重視していきたい。今も、上級管理職を中心に、目標設定面談というものをやっているところです。

川島:目標設定面談って何ですか?

黒田:各役職の人の目標設定について、僕と徹底して話し合う面談です。目標の立て方についても、細かく話し合います。それも、コミットメントではなく、コンセンサスにすることを重視しています。

 たとえば80億円の売り上げを100億円に増やしたいという目標設定があったとすると、その20億円を、何のためにどう増やしていくのかについて、両者で合意する。とともに、20億円の増やし方が、全社の方向と一致しているのかどうかを、しっかり確認するということです。

川島:部門の目標が、全社の目標に統合されているかどうか、顔を合わせて話し合うことで、うんと理解が深まるのでしょうね。

黒田:会社が大きく変わらなければならない時期にいるのは確かなのですが、「改革」とか「変革」という言葉に、僕自身、物凄いアレルギーが出てきていて。だからあえて、「変化」という言葉を使うようにしています。

川島:それは、なぜですか?

黒田:「改革」とか「変革」というのは、凄くパワフルな言葉ではありますが、あまり具体的ではないのです。最近、さらに凄いですよね「極大化」とか「最適化」とか(笑)。こういう言葉は、変わることを嫌がっている人を、無理やり変えるみたいなニュアンスも、ちょっと苦手と思っていて。

川島:人間の心身が緩やかに納得するのは、「改革」や「変革」ではなく、「変化」なのかもしれません。

黒田:それも、AからBはどんな「変化」で、そのために、どんなCをやりますかというストーリーをみんなに問いかけて、考えてもらうようにしています。

川島:腹を括った豪胆さの中に、きめ細かい優しさが見え隠れしています。

黒田:何というか、もう自分がどうこうということじゃなくて、自分がなくなったという感じですかね。主語は会社だし。

川島:なるほど主語が会社! 私人というより公人の立場として役割を果たしていらっしゃる。一回りも二回りの大きくなられた話をうかがって勇気を得ました。今日は、どうもありがとうございました。