川島:自分の仕事は誰のためにやっているのか、いわば社会との接点みたいなことを体感なさったわけですね。
黒田:この発見は大きかったです。振り返ってみると、その後の仕事に役立ってきたとも思います。そして次は、グループ内のメーカー会社のトップの役割を命じられたのです。
川島:それまで売っていた商品を、作っている会社のトップということですね。
黒田:最初は凄く辛い状況でした。僕はそれまで、販売会社で営業をやっていたじゃないですか。それがメーカー会社に異動したら、誰も味方がいないような状況になったのです。
川島:モノ作りする部門と、販売する部門って、たいていは、あまり仲良くないですから。
黒田:そうなんです。メーカー会社の社員は「営業が安売りするから利益が出ない」と思っているし、販売会社の社員は「いいものを作らないから売れない」と思っている。僕自身、メーカー会社の社長になってみて「販売会社にいた時は、何て無理なことを言っていたのだろう」と気づかされました。
目の前のお客さんではなく本当のお客さんを見る
川島:それで、辛い状況をどう打開していったのですか?
黒田:自分のスタンスを決めたんです。メーカー会社が「やりたい」と思うことがあったら、僕が販売会社の人たちを説得しに行く。つまり、メーカー会社と販売会社をつなぐことを徹底してやろうと思ったのです。
川島:逆に言えば、それまで「つなぐ」役割があまりされてこなかった。そこを責任持ってやっていくということですね。
黒田:そうです。やってみたら、メーカー会社の人たちも、少しずつ信頼してくれるようになってきたのです。でも、ようやくそこまで漕ぎつけたと思ったら、2010年に、それまで別々だったメーカー会社と販売会社、あと施工関係の会社とか、オフィス家具関連の会社をコクヨファニチャーとして統合し、僕がトップを務めることになったのです。
川島:そうなると、「つなぐ」ことから、「まとめる」能力も問われそうです。
黒田:そのためには、何か旗印が必要だと思いました。それで「誰のためにオフィス家具を作って販売しているのか」、社内で徹底的に議論を重ねたのです。
川島:オフィス家具って、だいたい会社の総務部みたいなところが決めていますよね。
黒田:直接のお客さんは、総務担当者あるいは購買担当者といった方たちなんです。そしてもちろん、最終的な判断を下すのは経営者です。だから、販売会社の人たちは、経営者と総務担当あるいは購買担当の方を、お客さんととらえていたのです。でも本当のところ、最終的なお客さんは誰かと言ったら社員の方々のわけです。
川島:それって当たり前のことと思うのですが。
黒田:でも、販売会社は、目の前のお客さん=経営者と総務担当あるいは購買担当ばかり見るようになっていたし、メーカー会社は、現場に直接、触れているわけではないので、お客さんがよく見えない状況に陥っていた。だから、本当のお客さんを見極めようという旗印を掲げたわけです。
川島:そうやって、現場は少しずつ変わっていったのですか?
黒田:モノ作り担当の社員たちに意志が出てきたし、そこに主体的な意見があるから、営業担当の社員たちは、それをお客様に伝えるようになってきたのです。
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