川島:本当ですか? じゃ、英邦さん自身がコクヨへの入社を選んだのですね。決め手は何だったのですか?

黒田:ちょうど社内で、100周年に向けた改革プロジェクトが進んでいたのです。それで、僕が外で修行している間に、改革によって会社が良くなり、置いてけぼりになるのは嫌だった。逆に、改革しても良くならなかったところに、後から来るのも嫌だし、入るなら今だと決めたのです。どうせビジネスの世界に入るなら、尊敬する祖父や親父の手伝いができるのもいいと思って。

川島:ちょっと、かっこいい話です。

黒田:ところが親父から「本当に入る気なら、おじいちゃんのところに正式にお願いに行ってきなさい」と言われたのです。黒田家の人がコクヨに入る時は、トップに承諾してもらう約束事があるのだと。そしてお願いに行ったらまた、厳しいことを言われまして。

川島:跡取り息子が家業を継ぐと言ったら、周囲は喜ぶものと思っていました。

黒田:「黒田の名前で会社に入るなら、普通の人の3倍は働きなさい」と、ビシっと言われたのです。

川島:えっ、3倍ですか?

黒田:それくらいやってはじめて、周囲の人が「仕事している」と認めてくれるというわけです。

川島:いや、厳しいなぁ。

異動したら、誰も味方がいないような状況で

川島:それで、入社されてから、本当に3倍働いたのですか?

黒田:自分では働いたつもりです。いやもう、物理的にがむしゃら状態で働きました。BtoBのビジネスを知らなかったので、最初はオフィス家具の販売会社で営業職に就いたのです。そこで、客先の要望を聞いて、オフィスを作るという仕事を、もう死ぬほどやりました。

川島:それは楽しかったんですか?

黒田:楽しかったですね。オフィスの改装ですから、工事を休日に行うことが圧倒的に多かったのですが、良い経験になりました。今でも忘れられないのは、ある企業を手がけた時のことです。

 社員の方たちが休日出勤してがんばっている。何日かにわたる工事だったで、その社員さんたちの仕事が完成していくプロセスを目の当たりにできたのです。それで「ああ、僕らの仕事はこういうことのためにあるのだ」と感じ入ったのです。

川島:どういうことですか?

黒田:家具を作って、オフィスを作ってというのが、うちの仕事と思っていたのですが、実はそうではない。オフィスで働いている人が、一生懸命がんばって問題を解決する、新しい挑戦をするといった仕事のためのお手伝いをするのが、うちの会社の本来の役割。意義ある仕事と実感できたのです。