お正月に2日休業を設けた理由
川島:もうひとつおうかがいしたいことがあります。三越伊勢丹は、休業日を設けたり、営業時間を短くしたりしていますが、内外の反応はいかがですか?
一般の方は知らないかもしれないのですが、百貨店の売り場の多くは取引先と共同で運営されていて、極端な場合、取引先に商品選定から販売員まで任せている。つまり、売場を作るところから、品揃え、店頭で接客する販売員まで、ほぼすべてを取引先に任せてしまう。中にはテナント業のように管理する体制の百貨店も見受けられ、場所貸し業と揶揄されたりもしています。その点から言えば、長い営業時間は、取引先の負担になっていたのではないでしょうか。

大西:営業時間が長くなってくると、売り場は1日に2シフトではなくて3シフトを組まければならないのです。営業時間に加え、開ける前の準備と、閉めた後の残務がもろもろありますから、開いている時間が長いということは、販売員の負担が前提となっています。
それを取引先に負担いただいている体制は、中長期的に変えていかなければならないと感じています。本当の意味で質の良い接客を行うためには、販売員の人たちが最高の状態で働いてもらうことだと大切だと思うからです。
川島:世の中の働き方が、朝型にシフトしてきて、残業を減らしたり、オフィスでなくて「スタバ」で仕事するなど、大きく変わってきているのですから、百貨店の休業日や営業時間の考え方も多様化していかなければならないのでしょうね。
大西:その通りです。お客様のことだけを考えると、極端に言えば24時間開いていた方がいいので、多大なるご迷惑をおかけしているという気持ちはあるのです。
川島:ただ、休業日がなくなって、営業時間がどんどん延長されたのは、裏を返せば売上至上主義から来ているのではないでしょうか?
大西:もちろん利益を上げることは大事ですが、目先の売り上げだけにとらわれるのでなく、中長期を視野に入れ、持続的な成長を遂げていかなければならないと戒めています。だから、定期的に休業日を設け、開店時間を遅らせる、閉店時間を早めるといった形で、各店レベルで営業時間を短くしているのです。2011年から一部店舗で実施し、徐々に広げていっています。
これをきっかけに、カテゴリーによって労働時間を変えるなど、皆が均質でなく、個別に対応した働き方を考えていかなければならないと思うのです。休業日も、今年のお正月は、伊勢丹は新宿本店、立川店、浦和店、松戸店、相模原店、府中店、三越は銀座店、千葉店、恵比寿店で、元旦と2日の二連休を実施しました。ここまでやったのですから、もう後退するつもりはありません。
川島:従業員や取引先からは、どんな反応がありましたか?
大西:嬉しいことに、約7割から8割の人が、働きやすくなったと感じているようです。時間の余裕ができて、コミュニケーションが取りやすくなったという声も多いですね。
川島:デパ地下に軒を連ねる有志企業の集まりである「食品会連絡共生会」の方々も、お正月連休ができたことで、主婦スタッフの方が家族と過ごせたなど、本当に喜んでいるとおっしゃっていました。
一方で、取引先=百貨店に入っている企業の中には、お休みで“浮いた”従業員を〇〇百貨店の応援隊として送り込んだという話も聞いていて驚きました。人手不足でそうせざるを得ない事情もわかるのですが、それじゃ意味がないのではないかと(笑)
大西:その通りです。日本の良い風習であるお正月という行事を尊重し、実家に帰るなりしてゆっくりして欲しいという思いがあったのですが、社員の中には「社長、お正月2日いただいても混む時期だし移動費は高いし、帰省するのは難しいです」という声もあって、「なるほど」と納得しながらがっかりもしたのです(笑)
川島:いやいや、意思がきっぱりしていてかっこいいです。応援します!
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