百貨店を取り巻く環境がさらに厳しさを増している。中間所得者層の消費伸び悩みに加え、一時は恵みの雨となった“爆買い”インバウンドの勢いが衰え、売上不振が鮮明になりつつある。
ただ、戦後の高度経済成長期から2000年に入るあたりまで、百貨店は時代の先端を切り拓いてきた。ファッションでは、海外の一流デザイナーをいち早く導入し、”目利き”としての役割を果たした。西武は「エルメス」や「ジョルジオ・アルマーニ」を、伊勢丹は「カルバン・クライン」や「カール・ラガーフェルド」など、海外ブランドの特選フロアを設けて、流行スタイルの先端を並べて見せた。
“一億総中流”が広まった70年代後半には、“ライフスタイル”という言葉が登場したが、これを牽引したのも百貨店だった。服をはじめ、家電や家具、生活雑貨まで豊富に揃え、それらを並べて見せることで”豊かな暮らし”を提案した。
80年代後半のバブル景気下で、その勢いにはさらに拍車がかかった。“感性消費”という言葉が流行し、斬新であること、著名であること、高額であることなどが”付加価値”として脚光を浴びたのである。「シャネル」や「ルイ・ヴィトン」など欧米の著名ブランドの大型ブティックが軒を連ねる豪勢なショッピング街が、伊勢丹や三越の中にできたりもした。
しかし、バブル崩壊、リーマンショックを経て、大きく様変わりした。1991年のピーク時に9.7兆円もあった売上高が前年割れするようになり、ついに2016年には6兆円を割り込むまでになった。なぜ、これほど勢いが衰えてしまったのか。そして将来に向け、どんな策を打っていくのか。老舗百貨店である三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長に話を聞いた。
変わらなければ生き残れない

慶應義塾大学商学部卒業後、1979年株式会社伊勢丹入社。入社以来紳士部門を歩んだ後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長を歴任、2009年伊勢丹社長執行役員、2012年から現職。“人を大切にする経営”をポリシーとし、人事制度や働き方の改革を進めている。(写真:大槻 純一、以下同)
川島:2016年の百貨店の売上高が5兆9780億円ということで、1980年以来初めて6兆円を下回りました。
大西:従来の文脈に沿ってやっていても意味がないということです。以前から想定していたことが、現象として表れてきただけのこと。当社は「百貨店という業態そのものを抜本的に見直さなければ生き残れない」とずっと言い続けてきたのです。
川島:深刻だと思うのは、売上高の3割を占める衣料品において、婦人服が6.3%、紳士服も5.3%も落ちていることです。“ファッションの伊勢丹”という意味では、伊勢丹新宿本店でさえ、お客が減っているような気もしますが。
大西:決して順風満帆ではありません。まさに様々な改革をしていかなければならないのです。取り掛かっている改革はあるのですが、それより早く市場が変化している。追いついていないところに、大きな問題があると感じています。
川島:大西さんは、ずっとそういう号令をかけて旗を振ってきたのに、なぜ追いついていないんですか。
大西:百貨店を取り巻く環境は、戦後から高度経済成長を経て今にいたるまで、長期で見ると基本的には右肩上がりの時代が続いてきたので、できあがってしまった常識や枠組みを破ることが、なかなかできないんです。
川島:でもそれ、多くの大企業が抱えている問題かもしれません。ここ数年で露呈している企業の不祥事を見ていると、「それって社会的な常識で言えば変なこと」というのが、企業内で平然と行われていて驚かされます。
大西:だからこそ、当社はもっともっとスピードを上げていかないといけないと思います。まだまだ危機感が薄いと、おおいに反省しているところです。
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