英國屋の小林英毅社長との出会いは、ある方から紹介されて、私が本店を訪れたのがきっかけだった。銀座の中央通りに面した所に、重厚感あふれる本店があるのは知っていたが、歴史ある店ならではの雰囲気に気圧され、足を踏み入れたことがない。だから、敷居をまたぐのは初めての経験。約束の時間に訪れたら、入り口で小林さんが待っている。オーソドックスで上等なスーツをまとっている姿が清々しい。そして、予想以上に若いことに驚かされた。

 ビジネスマンのスーツ姿は、ドブネズミルックと揶揄されていた頃に比べ、少し進化したように思う。細身のスーツに先の尖った靴、髪の毛を立てて闊歩する若いビジネスマンは少なくない。ただ、小林さんのスーツ姿は、それとは一線を画するもの。英國屋のスーツが、表層的な流行とは別の文脈で、上質な価値を提案していると分かった。  話を聞くうちに、小林さんが諸々の経緯を経て、英國屋の未来を担おうとしている強い意志が伝わってきた。どんな展望を持って老舗を率いていこうとしているのか、改めてインタビューした。

銀座英國屋の価値が全然、分かっていなかった

若い頃は会社を継ぐ気はなかったという小林英毅社長(写真:鈴木愛子、以下同)

川島:最初に、英國屋の概要について、少し教えていただけますか。オーダーメード紳士服を手掛ける老舗ということは知っているのですが、敷居が高過ぎて、実態がよく分かっていない気もするので。

小林:分かりました。英國屋の創業は1940年、祖父が開いた「銀座ハット」という帽子屋が発祥です。一方で、整髪料を使う男性が急激に増えていく中、「帽子をかぶる人は減っていく」と祖父は判断し、「小林洋装店」という紳士服の仕立屋を日本橋で始めたのです。それが1952年に銀座に移転し、「銀座英國屋」となったのです。

川島:なるほど。当時、紳士服と言えば、誂え=オーダーメードが主流で、既製服が登場してはいたものの、あまり品質が良くないものが多い。そんなことから「吊るし」などと呼ばれていた時代でした。

小林:そうです。そんな中で銀座英國屋は、ビジネスエグゼクティブにふさわしい装いを提供するため、仕立服にこだわってきたのです。つまり、布選びから縫製まで、お客様の要望に応えた一点ものをお仕立てするフルオーダーメードです。例えば、人間は左右で肩の高さも腕の長さも違うわけですが、そういったことも加味して、その方のための型紙を作り、専門技術を持った職人が縫い上げているのです。

川島:フルオーダーメードというと、高額過ぎて庶民には手が出ないと思っちゃいます。

小林:スーツの場合で、18万円くらいからお作りすることができます。

川島:そうなんですね。もっと高いのかと誤解していました(笑)。そこまで上質なモノづくりにこだわっているから、「スーツなら銀座英國屋」という顧客がついているのでしょうね。さて小林さんは、幼い頃から、家業を継ぐことを意識していたのですか。

小林:いえ、若い頃は「古臭いブランド」というイメージを持っていて、全く継ぐ気はありませんでした。銀座英國屋というものの価値が、全然分かっていなかったのです。