軋轢より期待の方が大きかった

これだけ立派な施設を作るとなると、社内で軋轢は生じなかったんですか。仮に10億円投資したとしても、すぐに商売に結びつくわけではないですよね。ワコールホールディングスは上場会社ですし、四半期ごとに株主から数値を厳しく問われます。社内だって、例えば営業部門からすれば、販促費をもう少し積み増してくれたら今期の売り上げは伸ばせるのに…と思うんじゃないでしょうか。

鳥屋尾:軋轢と言うよりは、むしろ期待の方が大きかったと感じています。このスタディホールの企画は当初、猪熊(敏博氏、ワコール総合企画室で広報・宣伝部の部長を務める)が提案しました。

 私も最初からかかわってきましたが、プロジェクトとして正式に走り出したのが2015年の8月です。広報・宣伝部内に、カリキュラムを考えるチームができました。スタディホールのメンバーは6人で、私がこの責任者になったのが、今年(2016年)の4月からです。

右が猪熊敏博氏、ワコール総合企画室で広報・宣伝部の部長を務める(写真:水野 浩志)

鳥屋尾:その時点では何かできていたわけでもなくて、仕組みも何も決まっていませんでした。予約システムを作らないといけない、会計システムも作らないといけない、社内から人も集めなきゃいけない。やらなければならないことを数え上げたら切りがなかったのですが、名称もロゴマークもすべてゼロから作り上げていきました。そうしたことを4月から10月の半年あまりで、一気にやりました。

 本を扱うことも初めてでした。このスタディホールは最初から、美にまつわる本を3000冊そろえることを決めていました。それだけの本を選ぶためブックディレクターの幅允孝(はば・よしたか)さんにもご協力をいただきました。

最初から、出来上がった仕組みがあったわけではなかった。

鳥屋尾:はい、それだけ短い期間で準備をしなければならなかったので、社外もそうですが、社内の人に強力にサポートしてもらいました。その時に感じたのが、社内からの「期待」だったんですよ。

 ワコールがまた、今までやったことがないことを始めようとしている。じゃあ、どうすればいいのかということをみんなで一緒に考えていく、そんなやりとりでした。だから、経理とも話す、情報システムとも話す、法務とも話す、知財とも話す、人事とも話すみたいな。そういうのを積み重ねてきました。

 例えば、物販で商品を売るにも、お客様からお金を受け取った後のフローがまったくできていなかった。私たち広報・宣伝部の人間はこれまでお金を使うばっかりで、売り上げや在庫を管理したことがない。講師の方には先にお金を支払うこともある。そうした会計フローを作る必要がありました。で、経理部長に相談に行ったら「鳥屋尾が言うことだったら、やったる、やったる」と言って、ぴしっとやってくださった。しかも「スタディホールなら、こういうところも気にしておいた方がいいで」と助言もしてもらいました。

 何でそれだけの協力が得られたのかを考えると、やっぱりこの事業に魅力があったからなんだと私は思っています。ワコールが女性の内面を美しくする事業を始める。時間はかかるかもしれないけれど、それは経営理念にも通じている。だからこそ、社内の力が結集できた。手前味噌なんですが、それはうちの会社のすごいところだなと感じています。