ワコールは2016年10月、京都駅八条口近くに「ワコールスタディホール京都」をオープンした。「美的好奇心をあそぶ、みらいの学びの場」をコンセプトに、スクール事業を始めた。京都駅から徒歩7分という好立地にありながら、なぜ自社製品の売り場にしなかったのか。スマートフォンなどを介したオンラインマーケティングが全盛の今、あえてオフラインで顧客接触に取り組む理由は何か。本プロジェクトのプロデューサー コミュニケーションディレクターの鳥屋尾優子氏に聞いた。
(聞き手は坂田 亮太郎)
なぜ今、ワコールが常設の「学びの場」を開設したのですか。
鳥屋尾:「ワコールスタディホール京都」は「美」をコンセプトにしています。美しさというものを多角的に学ぶための場所です。そのために多様な美をここに集積して、みんなが触れられたり、互いに学びあったりできる場所を作りたいという思いが発端になっています。キャッチフレーズは「美的好奇心をあそぶ、みらいの学びの場」です。

ワコールスタディホール京都プロデューサー コミュニケーションディレクター。京都府出身。ワコール入社後、財務部門を経て広報室でワコールのPR誌の編集に従事。その後、ワコールホールディングス、ワコールのマスコミ対応窓口、PR企画立案・実行部門のマネジャーを務めた後、2016年4月より現職(写真:水野 浩志)
「知的」ではなく、「美的」好奇心を満たす場だと。
鳥屋尾:このキャッチフレーズは、私たちが実現したいことを的確に言い当てていると思っています。ここに来てくださる方と美的好奇心を刺激し合って学んでいく。そんな場にしようということで、この施設は生まれました。
「ワコールがなぜ『美』なのか」とか「下着メーカーが教育事業をやる意味があるのか」と疑問を抱く方もいらっしゃると思います。その答えは、ワコールの経営理念にあります。少し長くなりますが、ご説明させていただきます。
ワコールは、「世の中の女性に美しくなってもらうことによって広く社会に寄与する」ということを経営理念に掲げています。世の中の女性が美しくなってもらうだけじゃなくて、女性が美しくなることで広く社会に寄与するということが理想であり、目標なんですね。ここがミソだと思っています。
ゴールは広く社会に寄与することであって、女性が美しくなることは手段に過ぎないということですね。
鳥屋尾:そうです。なぜそのような理念を掲げたのか。それは創業者である塚本幸一の戦争体験に起因します。
戦争が終わった時、50人以上いた自分たちの小隊は3人しか生き残れませんでした。3人で船に乗って日本に帰って来たとき、塚本は「自分は1回死んでいる。だからこの命は生き残ったのではなくて、生かされている」というふうに思ったそうです。
京都駅にたどり着いて塚本は、平和というものを実現するには、どんな世の中を作ればいいのかを考えました。その瞬間、世の中の女性が美しさを謳歌する時代こそが平和の時代だというふうに思ったんですね。戦争の時代、女性が美しさを追い求めることなんて、できなかったわけですから。
戦時中、特に女性は嫌な思いもたくさんされたんでしょう。
鳥屋尾:塚本は京都に帰ってきたその日から動き始めました。ただ、当時、繊維製品は政府が統制していたので、なかなか自由に扱えるものではなかった。そこで模造真珠を卸して販売したり、木製のバッグの取っ手、ブローチ、そしてヘアピンというようなものを行商したりしていました。そして3年後に、ワコールが下着を作り始めるきっかけとなった「ブラパット」に出会いました。

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