米グーグル日本法人元社長の村上憲郎氏が2017年10月、再生医療の産業化支援やヒト細胞の培養受託サービスなどを手掛けるバイオベンチャー企業・セルソース(東京都港区)の社外取締役に就任した。IT(情報技術)畑を歩んできた村上氏はなぜ今、医療分野に関わることを決めたのか。医療に対する思いや、IT活用の展望について聞いた。
(聞き手は内海真希)

村上憲郎事務所代表取締役。1970年京都大学工学部卒業。日立電子(現・日立国際電気)などを経て2003年米グーグル副社長兼日本法人社長に就任。グーグル日本法人名誉会長を経て11年に退任(写真:竹井俊晴、以下同)
セルソースとの最初の接点は。
村上憲郎氏(以下、村上):セルソース社長CEO(最高経営責任者)の裙本理人さんから、「ご相談したいことがあります」と連絡をいただいたのが始まりです。私は「来る者は拒まず」という基本方針で、特に若い人たちが何か新しいことを始めたい、あるいは始めたけれどどうすればいいんでしょうかといった相談には応じることにしています。もう70歳に達していますので、何がしかこれまでの経験からお役に立てるようなことが言えたら、と思いまして。
セルソースは、医療機関が再生医療を提供するための法的手続きをサポートしたり、医療機関で患者さんから採取した幹細胞の加工・培養を受託したりする事業を手掛けています。最初にこの事業内容を聞いたとき、率直にどう思いましたか。
村上:一般人の常識としては、再生医療と言えば山中伸弥氏が発見した「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」くらいしか思い浮かばない。そんな中で、セルソースはそれとは違うアプローチで、脂肪組織に由来する幹細胞を研究しているという。しかも手堅く実績を重ねていると聞いて、まず驚きました。
専門性の高い事業内容に対して、抵抗感はなかったのですか。
村上:大きな話でいえば、やっぱり我々のような団塊の世代が一挙に後期高齢者の仲間入りをして、医療財源を使い尽くそうとしているわけですよ。それはちょっと申し訳ないという思いが心の片隅にある。他方で、より優れた医療技術が出てくることで、医療費全体を抑制できる可能性もある。そう考えると、迷惑を掛ける側としては、セルソースのようなベンチャー企業に頑張っていただきたいと思うわけです。
話は飛びますが、米グーグルでAI(人工知能)開発を指揮しているレイ・カーツワイル氏。彼は私と同じ年齢なんですが、1980年代に私がボストンのDEC米国本社人工知能技術センターにいたときに、人工知能学会に来ていた彼と会ったことがあるんですね。
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