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中野:機能に変更を加えることを前提とした「マイクロサービス」や「疎結合」などの仕組みを取り入れた最新システムに比べて、需要に合わせて柔軟に拡張するのが困難です。

 またAIやビッグデータ解析に必要な情報をシステムから取り出すのも難しい。IT関連のセミナーで感化された経営者からAIやビッグデータ解析の活用を指示されたシステム担当者が、「5年間で合計300億円を投じて、システムを一新する必要があります」などと報告すると「そんな後ろ向きのことを聞いているのではない」と怒られたという、笑えない逸話も漏れ聞こえてきます。

 システムの老朽化による弊害を、経営者がなかなか実感できないのも問題です。自覚症状のほとんどない膵臓がんと同じですね。気づいたときには手遅れになりかねません。

経営破綻した日航が繰り出した一手

経営者にはどのような心構えが必要ですか。

中野:基幹システムの刷新には数年の歳月と、数百億円の費用がかかることが珍しくありません。その上、システムの開発に失敗するリスクもあります。新システムを導入した成果が出るころに自分は退任していることもあり得るでしょう。経営者としての任期中は、刷新コストが負担になるだけです。

 それでも経営者は腹をくくる必要があります。手をこまぬいていれば「技術的負債」が膨れ上がります。それだけではありません。中国の新興企業は創業当初からAIなどに対応した最新システムを導入しています。韓国企業の多くも、既に新たなシステムを導入しています。中韓勢に対抗するためにも、システムを新しくする必要があります。

日本でシステム刷新に成功した事例はあるのでしょうか。

中野:代表例が日本航空です。7年の歳月と800億円を投じて昨年、航空券の予約・発行などを担う基幹システムを50年ぶりに刷新しました。そのおかげでAIによる正確な需要予測が可能となり、高い搭乗率を達成していると聞きます。

 半世紀ぶりのシステム更新のきっかけは経営破綻でした。会社更生を進める過程で、裁判所からシステムの刷新を求められたのです。そこまでのショック療法でないと、なかなかDXを断行できないのが実情なのでしょう。

今後どのようなスケジュールで産業界にDXの実施を促していきますか。

中野:報告書では2020年までを準備期間として、経営者の決断の下で既存システムの診断や刷新計画の策定を求めています。21~25年はシステム刷新の実行期間と位置づけました。25年までに産業界全体でDXが完了すれば、2030年に実質GDP(国内総生産)が130兆円以上押し上げられると試算しています。長期的な視点に立った経営判断が求められます。