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経済産業省は今秋、先進ITを使ってビジネスモデルを変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を産業界に促す報告書を公表した(報告書の全文はこちら)。日本企業は7年以内に既存システムを一新しないと、人工知能(AI)やビッグデータ解析、IoT技術を駆使する海外企業に対して、競争力を失うと警告する。報告書を取りまとめた研究会の事務局を務める経産省・情報技術利用促進課の中野剛志課長に真意を聞いた。

(聞き手は吉野次郎)

中野剛志(なかの・たけし)
1971年神奈川県生まれ。96年東京大学教養学部卒、通商産業省(現・経済産業省)入省。05年英エディンバラ大学から博士号(政治思想)取得。17年7月から経産省商務情報政策局情報技術利用促進課長

報告書からは産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)が遅々として進まないことへの危機感がにじみ出ています。

中野剛志氏(以下、中野):このままでは7年後の2025年に、運用を始めてから21年以上が経つ基幹システムの割合が6割に上昇します。現時点ではその比率は2割です。システムの老朽化に伴い、保守・維持コストは膨らみます。現在でも一般的に保守・維持コストは企業のIT関連予算の8割を占め、新たな価値を創造するためのIT予算は残る2割にすぎません。増大する一方の保守・維持コストは「技術的負債」と呼ばれます。

 その割合は今後9割以上となり、企業の価値創造がますます難しくなります。IT人材の不足も深刻化します。25年の不足人数は43万人と、現在の17万人から拡大する見込みです。

 にっちもさっちも行かない崖っぷちを「2025年の崖」と呼ぶことにしました。この時点までにシステムを一新して、DXを完了していなければ、崖を転げ落ちるようにデジタル時代の競争で敗者となる恐れがあります。

増築重ねた熱海の旅館のよう

何が企業によるシステムの刷新を妨げているのでしょうか。

中野:日本企業の基幹システムの多くは1970~80年代に稼働しました。当時は景気がよく、世界に先駆けて先進的なシステムの導入が進みました。

 ところがシステムの更新時期を迎えた90年代以降は景気後退の時期と重なり、多くの企業はそのまま老朽化したシステムを使い続けました。現場からの新たな要求に対しては、システムのカスタマイズを重ねるという小手先の対応を取りました。このため現在、多くの基幹システムは増築に増築を重ね迷路のような熱海の旅館のごとく、複雑に入り組んでいます。