どのような影響がありますか。

菅野:ポイントは、2つあります。

 1つは、NATO(北大西洋条約機構)の枠組みの将来です。トランプ氏は過去の発言の中で、「NATOは時代遅れの存在」と度々批判してきました。NATO加盟国は、GDP(国内総生産)比で2%を国防費として負担する目標が課されています。米国は自国の防衛費の拠出は増やす方針ですが、NATOへの貢献を減らす可能性が指摘されています。米国はNATOの柱と言える存在で、これがなくなれば、NATOの抑止力は著しく低下します。

そうなれば、EUにおいて、テロ組織やロシアの脅威が拡大しかねないというわけですね。

菅野:ロシアのプーチン大統領とトランプ氏の関係が今後どうなるかは分かりませんが、仮に米国がNATOから遠ざかれば、ロシアの脅威が増すのは間違いないでしょう。もちろん、NATO加盟国もそうした事態にならないよう、トランプ氏がロシアに接近する動きを阻止するでしょうし、トランプ氏も政策方針を変える可能性は十分にあります。

「反ユーロ」「反EU」政党を完全に勢いづかせた

 トランプ氏の勝利がEUに与えるもう1つの影響は、「反ユーロ」や「反EU」を掲げる極右政党をさらに勢いづかせたことです。トランプ氏が、Brexitを主導したUKIP(英国国民党)のナイジェル・ファラージ元党首と親密な関係にあるのは有名です。今回の結果を、欧州各国の極右政党が歓迎しています。

 フランスの極右政党である、国民戦線のマリーヌ・ルペン氏はツイッターでトランプ氏に賛辞を送りました。オランダの極右政党である自由党のヘルト・ウィルダース党首も「トランプ氏の当選は我々にも追い風」とメディアに語っています。フランス、オランダ両国とも来年に選挙を控えており、これらの極右政党の躍進が予想されています。

 特に、フランスの大統領選に出馬すると言われているルペン氏は、これまで絶対に勝利することはないとみられてきました。しかし、「トランプ大統領」が現実になった今、その可能性を絶対にないとは言い切れなくなっています。

 他にも、今年12月に実施されるイタリアでの国民投票、オーストリアでのやり直し大統領選など、トランプ氏の勝利によってその流れが分からなくなりそうな選挙が無数にあります。EUの結束が再び大きく揺さぶられることになるでしょう。

EUは今後どうなっていきますか。

菅野:一言で言えば、内向きになるでしょう。EU各国の国内政治が不安定になりますから、EUとして統一歩調を取ることは難しくなるでしょう。仏オランド大統領、伊レンツィ首相、そして独メルケル首相もみな、国内政治を安定させることに手いっぱいになり、EUとしての全体最適よりも部分最適を優先するでしょう。

 具体的に言えば、これまで推進してきたFTA(自由貿易協定)などの活動は停滞する可能性が高い。10月30日、EUはカナダとのFTAに署名しました。最後までベルギーの国内調整が難航し、やっとの思いで署名にたどり着いた。今回はなんとかまとまりましたが、EUが今後もこうした結束を維持できるかは、非常に疑わしい。

 加盟国は次第に、EUに加盟していること自体を足かせと感じるようになっていくでしょう。今後、米国や英国は、緊縮財政から財政出動に政策を転換する。その結果、仮に経済が上向くことになれば、緊縮財政を強いるEUに対する不満がさらに高まるでしょう。