「ドライバーの仕事はプログラマーに近づく」

パイクスピークに電気自動車で挑むことを通じて、電気自動車の可能性を実感しているということでしょうか。

田嶋:一番わかりやすい例をお話ししますと、「空気」の問題があります。レースをする上でガソリン車と、電気自動車の最大の違いは、空気を必要としているかどうかだと思います。ヒルクライムのレースでは、標高が高くなるほど空気が薄くなります。最高で4300mまで上がりますので、ガソリンを燃やすのに空気が必要なクルマだと、出力が4割くらいダウンします。スタート地点で1000馬力だとすると、600馬力になってしまう。

(写真提供:タジマモーターコーポレーション)

 人間もそうですが、空気が薄くなるとすべてがだるくなるんですね。だから、アクセルを生んでもなかなか加速がついてこないとか、すべてのレスポンスが遅くなる。パワーが落ちると同時にだるくなる。これは、ガソリン車ではどうしても避けられません。もちろん、ターボチャージャーを付けて加圧して空気を押し込んだり、いろいろやるわけですが、やっぱり落ちるんですね。

電気自動車だと、どうなのですか。

田嶋:一方、電気自動車は、出力が山の下から上まで全く変わらない。それは、非常に有利です。ただし、ガソリンを消費しない分、クルマの重量が全く減らないというデメリットもありますが。ガソリン車の場合、F1もそうですが、走れば走るほど軽くなるのでタイムが上がる。

 それでも、やはり電気自動車の方が優れていると思います。電気自動車は加速する時に電気を放電するのですが、減速する時には逆にエネルギーを熱に変えないで戻すことができるんですね。放電と充電を繰り返しながら走るわけです。そういう意味で、エネルギー効率が良い。

 それから、ガソリン車の場合は、アイドリング状態からアクセルを踏むことで、徐々にエンジンの回転数が上がっていくわけですが、電気自動車は一瞬で最大トルクまで出せるんです。

ということは、電気自動車の方がクルマのコントロールが難しいのですか。

田嶋:我々のクルマは1.1メガワットあるのですが、ガソリン車なら1500馬力です。つまり、最初の瞬間から1500馬力の出力を出せる。もちろん、それをやろうとするとタイヤが空転して走りませんが、それでも電気自動車の場合、最大出力をいつでも出せるという条件の中で、電気によってそれを自由に制御できます。ガソリン車ではそうはいかない。

 例えば、雪や氷の上では、ちょっとアクセルを踏んだだけで一般車ならスピンするくらい滑りますよね。一方、電気自動車なら、コンピューターを使っていかようにも制御できる。ガソリン車では、トラクション・コントロール・システムやABS(アンチブロック・ブレーキ・システム)などがありますが、それらはすべてエネルギーを捨ててしまっている。それに、もう1つは反動の遅れがどうしても出る。しかし、電気自動車なら様々な制御が可能になる。

 今、私たちは、4つのモーターでそれぞれのタイヤを独立して動かす、4輪独立制御の電気自動車でレースに挑んでいます。このメリットは、例えば、ターンしようとするときに、右と左の車輪を独立して制御することで、極端に言えば、ハンドルを切らなくても曲がることができる。これに、ハンドル操作を加えることで、ハンドルとトルク制御で曲がっていくようなことが可能になっています。その時、どれくらいハンドルを切る必要があるのかといったデータを、様々なセンサーで読み取って分析しています。

先ほど、AIの話が出ましたが、センサーがクルマの状況を感知し、AIが運転をサポートすることで、従来よりも効率的なドライビングができるというわけですか。

田嶋:そうです。最近では、ドライバーの仕事は、コンピューターのセットアップまでに何百時間という走行データを、ひたすら走ってはコンピューターに教え込むという、どちらかというとプログラマーみたいな仕事にかなり近づいてきています。

 今、私たちが電気自動車でレースに挑んでいるのは、ゆくゆくはこの技術を市販車にフィードバックしたいからです。こうした技術はすべて、より安全なクルマの開発につながると思うのです。

 速く走れる、ということは、より安全に走れるようになる、と言うことなんです。それを極めたい。