「温暖化でコースの状況が前年と全く変わってしまうんです」

その難しいコースに今、電気自動車(EV)で挑んでいる。何がきっかけだったのでしょう。

田嶋:現在、電気自動車普及協会 (APEV)の名誉会長であるベネッセ(ホールディングス)の福武總一郎・元会長から突然、電話があったんですよ。もちろん、事務方からですけれど、僕にベネッセから電話がかかってくるということは、昔勉強していなかったから、もう一回勉強しろと言うのかなと思ったくらい、最初は軽く聞き流していたんです。しかし、福武さんの熱い思いを聞いていると、ああ、そういうことかと思いました。

 当時、僕はパイクスピークで6年連続のチャンピオンになり、7連勝を目指してクルマも作り始めていました。福武さんから話を聞いたのは、そんな時です。

 実は、僕自身、ずっと気になっていたことがありました。私が参戦している世界選手権のラリーでは、15カ国を転戦するんですが、その中で、北欧のフィンランドでもラリーがあるんですね。要するに、雪上でのレースです。氷の上を走ったり、雪の上を走ったり。そのレースで勝つために非常に重要なのは、タイヤにあるスパイクのピンと、そのピンを支えるタイヤの構造です。みなさんは氷なんてどれも同じだと思われるかもしれませんが、硬さとか厚みとか温度とか、どれも違う。その状況にタイヤのスペックが合わないと、全然タイムが出ないんです。

(写真提供:タジマモーターコーポレーション)

 例えば、ピンはコンマ何ミリの世界で調整するので、ものすごくシビアな世界なんです。氷が固いと、ピンが倒れるでしょう。だから、タイヤのゴムを硬くしてピンが倒れないようにする。しかし、硬くし過ぎると、今度は逆に全然踏ん張れなくなる。ゴムの硬度、内部構造、ピンの突出量、それからピンの大きさ、それらがぴたりと合わないと、タイヤが氷をうまく引っかけない。

 だから、毎年レースに使ったタイヤの状態や氷の状態を綿密に調べておいて、翌年の夏ごろから次のレースに使うタイヤの開発を始めます。そうしないと、間に合わない。しかし、そうやって、万全の体制を整えてレースに挑むと、氷の状況が前年と全く変わってしまっているんです。ようするに、毎年暖かくなっているんです。それでもう、我々としては参っちゃいましてね。

どれほど変わってしまうんですか。

田嶋:ひどいときなんて、凍っていたところが溶けて、どろどろに氷と水が混ざった状態になっていたり、雪だったところが川になっていたり、ひどいところはそれくらい変わっているんです。もう、話にならないくらい。僕は、地球温暖化による環境問題ということではなくて、ラリーに勝つために困っていたんです。

 そうした時、福武さんが電気自動車で地球環境を守りたいとおっしゃる。それで、僕は、「いや、福武さん、実は温暖化はもっともっと進んでいます」と実体験を話したんです。そうしたら、福武さんは「そうでしょう。だから地球温暖化は、何よりもこれからの若い子のために、将来の地球のために大きな問題だということをアピールしないとだめ。アピールするのには、やはりシンボリックなことが必要で、それにはガソリン車で優勝した人が、自分でその記録を電気自動車で破るということが、最も説得力があるじゃないか」というふうに話すんです。

 さすが教育界のトップだから、説得するのが上手いんですよ。なるほど、うまいことを言うな、と思いましてね。僕もその熱意にはまってしまった。

田嶋さんは、ドライバーとしてレースに挑むだけではなく、自らクルマを作っていますよね。

田嶋:はい。作って、自分がプレイングマネージャーとして乗っています。普通はクルマを作る会社が走る人を雇うという形ですが。まあ、世界で私だけかもしれませんね、両方をやるのは。だから、余計に殿堂に選んでくれたのかもしれません。

そもそも、モノ作りも好きだった。

田嶋:古い話ですが、レーサーを志したのは7歳の時で、免許を持たない頃からゴーカートを自分で作って、田んぼ道を走っていました。田舎でしたからね。近所の鉄工所のオヤジをだまくらかして、溶接をしてもらったりして。