先週に続く日本電産・永守重信会長CEO(最高経営責任者)インタビュー第二弾。発表したばかりの2018年第2四半期業績は絶好調だが、懸念もある。その中で米中貿易摩擦激化への対応、中国投資の在り方、得意のM&Aでの今後の戦略について聞いた。(聞き手は本誌主任編集委員 田村賢司)
先日発表した2018年4~9月期決算は、前年同期比で純利益が32.1%増と大幅増益でした。しかし、7~9月期の車載部門、家電・商業・産業用モーター部門は4~6月期より微減収となりました。市場の拡大トレンドに変化が起きていますか。
永守重信氏(以下、永守):微減になったのは確か。これまで車載や家電・商業・産業用モーターは自動化やロボット化などのフォローの風を受けてきた。それが弱まった感じだが、こういう時こそむしろチャンスだと思う。(ここ数年続いた世界同時好況という)景気が“後退”すれば、買収の手控えなどでM&A(合併・買収)コストは下がる。優秀な技術者などの採用も楽になるし、部材の調達コストも下がるからです。風はなくても凧を揚げるのが日本電産だと思って欲しい。利益率はまだ高められると考えています。
大型買収だけでは駄目、ほとんどが減損の憂き目を見ている
需要の“停滞”に不安はないと見ていると。
日本電産会長CEO(最高経営責任者)。1944年京都府生まれ。職業訓練大学校を卒業。73年に日本電産を創業し、社長に就任した。ハードディスク向けから車載、家電、商業、産業用モーターまで事業を広げ、世界有数のモーターメーカーに育て上げた。2014年10月から会長兼社長CEO。2018年3月、京都学園理事長、同年6月、会長CEOに。(写真=太田未来子、以下同)
永守:例えばロボット需要が落ちれば、当然その価格は下がります。するとロボットメーカーはキーコンポーネントの値段に厳しくなる。そこで高機能なものを安く提供できるのは当社の強みです。
かねて製造業のデジタル化を促す第4次産業革命(インダストリー4.0)の進展をにらんで、自動化部品の開発・製造とそのためのM&Aに力を入れてきました。その成果が出るということですか。
永守:ずっと以前からそれを言ってきています。ロボット関連部品で言えば、モーターに減速機などをつけたモジュール(複数の部品が一体化した機能部品)を作ることを進めてきた。M&Aも同様。最近では、今年8月にグループの減速機メーカー、日本電産シンポがドイツの減速機メーカー、MSグレスナーを買収しました。
日本電産シンポは一言でいえば、(水平方向など)入力と同じ方向に機械を動かす際の動きを効率化する減速機が得意です。これに対し、MSグレスナーのそれは垂直方向への動きに使うもの。これで縦横いずれの動きにも対応しやすくなるわけです。
モジュール化したより高機能な製品の開発に早くから取り組んできたからこそだと思っています。
産業界では数千億円規模の大型買収が珍しくなくなっていますが、MSグレスナーも買収額は50億円程度と見られるなど小型のものを積み重ねています。
永守:2017年には米電機大手エマソン・エレクトリック(ミズーリ州)の産業用モーターや発電機などの事業を買収した。かなりの規模(買収額は12億ドル)でしたが、そうしたものに小型の買収を組み合わせていくのが私のM&Aの仕方。石垣の大きな石の間に小さな石を入れるような詰め物型買収と呼んでいるけれども、これをやっていくことで強い技術を作っていくことができるのです。
最近はやりの大型買収はほとんどが高すぎる。私の計算ではその88%が後に業績悪化に追い込まれ、減損せざるを得なくなっています。
将来の市場の姿を予想して、そこに向けて順々に形を作っていくというわけですか。
永守:大きな買い物をして、どんと売上高を押し上げるようなやり方はとりません。例えば、2017年のエマソンでも狙いの1つは再生エネルギー向け発電機でした。ドイツやイタリアは原子力発電を止めることにしたので、欧州での再エネ需要は大きくなる。
再エネには蓄電機構や発電機が必要で、蓄電の方は先に持っていたから、発電機の会社を次に買ったというわけです。必要な技術を順々に買い、自社でも育て整えていくのです。
中国は今後も成長、着実に投資をするつもり
中国の高齢化も市場の変化要因としてかねて注目してこられました。
永守:そうですね。工場の自動化は世界的に大きなトレンドですが、中国にもそれがくるとかねて思っていました。中国と言えば、かつては労働力の安さが売り物で、それはここ7、8年変わっていた。次第に人件費が上がって来ていたからです。でも、自動化機械の必要性まで早くから注目する声は少なかったと思います。
しかし、私は工場で人が集めにくくなると見ていました。賃金が上がってくれば、無理にきつい仕事をしたくなくなるだろうし、一人っ子で育った若者達の中にはそんな意識も強くなってきた。
だから余計に自動化が必要になるのです。元々、日本に比べ転職が多いという側面もある。市場は大きなトレンドと、その中で起きてくることを絶えず予想し、ストーリーを考える。そして、自社で何ができるか、どうしないといけないかのストーリーも常に考えていないといけない。そう思いますね。
米中貿易摩擦が激化しています。今後の中国投資は変えるのですか。
永守:貿易戦争はしばらく続くでしょう。それに対応して中国から米国に輸出している自動車や家電部品の生産の一部をメキシコに移すつもりです。車載用ではパワーステアリングのモーター、家電向けはエアコン部品などの生産を移管します。
しかし、輸出需要にブレーキがかかったから中国投資を止めて、また良くなったら再開するようなやり方はとらない。中国では着実に投資するつもりです。半年程度のスパンで見ると、中国は影響を受けるかもしれませんが、長期で見るとやはり中国は成長する。米国よりも成長する。むしろ今は中国投資のチャンスだと思いますね。
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