日本の社会問題を解決するために

今回の研究ではオリエンタル酵母がNMNを製造したと聞きます。

今井:そうです。今回の研究はオリエンタル酵母さんとの共同研究です。そもそもことの始まりは2008年にさかのぼります。オリエンタル酵母さんの若い研究員の方が2007年に我々が出したNMNに関する論文を読まれて、「うちの技術であればNMNをつくれますよ」とメールをくださったんです。ちょうど私たちもNMNを供給してくれるところを探していたので、それで共同研究が始まりました。

 私が強調したいのは、いまのような高品質なNMNは日本の技術でできたものなんだということです。私は米国の大学にいますが、日本企業と日本人研究者の共同研究で、8年もかけて開発された物質なんです。日本は超高齢化と少子化に苦しんでいますが、日本の社会問題を解決するために、ぜひNMNを広く使って欲しいと思います。

確かに、NMNは日本人の手によって生み出されたものです。ただ、一方で今井教授はセントルイスのワシントン大学を拠点に研究されています。なぜ今井教授のような研究者は米国に移ってしまうのでしょうか。

今井:現在、研究費を得るのは厳しい状況にありますが、そうは言っても米国は他国と比較して研究開発費が潤沢にありますし、自由に研究ができます。そういった環境に惹かれて、世界中から頭脳が集まっているのだと思います。こういった多様なバックグラウンドを持った優秀な人材が十分な環境の下で研究に没入する。それが米国における最先端の科学力を支えるのに貢献しているのは間違いありません。

共和党のドナルド・トランプ候補は移民に対して強硬な発言をしています。

今井:すぐに強制退去させるかどうかはともかく、イリーガルな移民を制限するということは当然かもしれません。ただその際にあまり制限をかけてしまうと、米国の底力になっている科学力が阻害されることになると思います。才能を持った人々がこの国に自由に来て力を伸ばしていくというプロセスが科学力を支えているので。

 加えて、米国に来る研究者を国籍にかかわらずサポートする懐の深さと、それを支えるきちんとした評価システムがあります。

評価システムというのはどういうことでしょうか。

今井:研究費の配分を公正に行うシステムが整っているということです。これがなかなか日本では…。

難しい。

今井:そうですね。米国の場合、国の研究費、特に医学研究費の場合はNIH(National Institute of Health:米国立衛生研究所)から出ていますが、その他にプライベートな財団から来る研究費もかなりあります。また、企業化、事業化を考えているような投資家が投資する資金もかなりある。そういった国、財団、投資家という三位一体の資金がこの国の科学力、技術力を支えています。日本でも最近、老化・寿命研究に国として研究資金を投じようという機運が高まっています。日本が長寿大国として、ぜひ世界をリードしていけるようになればと願っています。