安倍晋三政権は日本で進む少子高齢化を「国難」と位置づけ、対策を急ぐ方針です。人口減社会に対応する国の処方箋はどうあるべきか。内閣府前審議官で、現在は経済社会総合研究所顧問の前川守氏に話を聞きました。(聞き手は山田 宏逸)

第4次安倍改造内閣が発足しました。安倍晋三首相は少子高齢化を「国難」とも表現し、対策を急ぐようです。

前川 守氏(以下、前川):日本経済は緩やかな景気回復が続いていますが、どこまで長続きするかには注意が必要です。中長期的には人口減少の問題を、特に現在の趨勢が続けば「今後50年で4割以上減少する」という生産年齢人口のハンパない状況を考えなければいけません。

 2014年の経済財政諮問会議「選択する未来」委員会報告によると、実質GDP(国内総生産)成長率は、2040年代以降はマイナスになります。現役1世帯当たりの実質消費も伸びは今の半分程度まで下がるとされています。人口減は日本経済を左右する最大のリスク要因と言っても言い過ぎではないでしょう。

<span class="fontBold">前川 守(まえかわ・まもる)氏</span><br> 1982年東大卒、旧経済企画庁へ。人事課長、経済財政運営担当政策統括官を経て内閣府審議官。18年7月に退官し、現在は内閣府経済社会総合研究所顧問を務める
前川 守(まえかわ・まもる)氏
1982年東大卒、旧経済企画庁へ。人事課長、経済財政運営担当政策統括官を経て内閣府審議官。18年7月に退官し、現在は内閣府経済社会総合研究所顧問を務める

全国の市区町村のうち896市町村が「消滅可能性都市」とした、いわゆる「増田レポート」から気づけば4年半が経ちました。

前川:増田レポートは「ネーミングの巧みさ」もあって、一気に人口減への関心が高まりましたね。その後も様々な予測や提言がありましたが、残念ながら、将来不安は解消されていません。

 その理由は、人口減はあらゆる分野に影響を与えるはずなのに、多くの提言は個別分野の予測と対応にとどまっていることです。霞が関の各省庁の提言に顕著ですが、作成者が違うので各分野の予測や対策の整合性が取れていないことがあります。また、対策には相当な財源が必要ですが、どこから捻出するか不透明です。加えて高い確率で発生が予測される首都直下地震等の巨大災害が考慮されていないこともあります。

「混乱ない社会へ」長期ビジョン不可欠

人口減対策の「タコツボ化」が進んでいると。

前川:そうですね。だからこそ私は、個別の予測と対策を束ね統括する総合的な政策体系として「長期ビジョン」を策定すべきだと考えます。

かつて経済企画庁や国土庁が作っていた経済計画、全総計画(全国総合開発計画)を復活させるイメージでしょうか。

前川:経済計画・全総計画の両方とも、時代の変化により機能と役割が発揮されなくなり廃止されたものです。ですから、単なる復活ではダメです。国家目標は戦後でいえば、復興であり、欧米へのキャッチアップでした。1990年以降はバブル経済崩壊への対応と、グローバル化への対応。これらは日本が自由に決めていたのではなく、歴史的経緯と国際情勢の中で選択してきたものです。

 今後の国家目標については、少し長くなりますが、「世界最速で進んでいる人口減少社会でも、国民ひとり一人が混乱なく満足に生活できる社会の形成」といったところでしょう。内閣の統轄の下、官民の英知を結集して政策体系をつくるべきだと考えます。