そもそも個人情報は個人のものであるはずだ
そうすると、企業が顧客との関係をマネジメントするのではなく、逆に顧客が企業との関係をマネジメントするということになりますね。
平林:はい。CRMのような、今までのマーケティングでは、企業が顧客囲い込みという観点から様々な情報を収集し、その収集した情報をベースに、顧客に対してアプローチしていくというような考え方です。
顧客にとっては、自分の情報であるにもかかわらず、企業側が独占的に支配をしているような状況になりがちです。かつてIC乗車券の履歴情報が、他の企業に販売される事件がありました。自分の情報がどう使われているかという点で、透明性が確保されていない例が、他でも散見されます。個人情報保護法の改正などもあり、個人情報に対しては、センシティブになっています。こうした中で、そもそもデータというのは個人が持っているべきなのではないのか、というところから、VRMの発想が出てきています。
コンセプトは理解できました。すでに、VRMが具体化している例はあるのですか。
平林:現在はCRMからVRMへの移行期にありますが、VRMの考え方は、少しずつですが、世の中に浸透し始めたと思います。金融とIT(情報技術)を融合するフィンテックの中で、一般的に消費者に受け入れられているのは、家計簿をつけたり、資産を運用したりする、PFM(Personal・Financial・Management)と呼ばれるものです。スマートフォンやパソコンで家計を管理するサービスを提供する、「マネーフォワード」や「マネーツリー」といった企業が、知られるようになっています。
これらの企業が何をやったかと言うと、例えば私の銀行口座の履歴というのは、三菱東京UFJ銀行の口座なら、同行のインターネットバンキングなどで確認しなければ見られない。みずほ銀行の口座を持っていれば、みずほの口座で見なければいけない。自分は今、一体どれだけの預貯金を持っているのかというのは、一覧性があるものはなかった。まめな人で、エクセルとかで帳簿をつけて、毎日毎日、管理すれば一覧できるとは思いますが、そうでもしなければ、自分でも把握しきれなかったはずです。
その課題を解決するために、マネーフォワードやマネーツリーは、専門用語で言う、データ・アグリゲート(集約)を行うのです。ユーザーは、IDとパスワードをマネーフォワードとか、マネーツリーに預け、そうした企業が、各銀行にアクセスして、データを集約してくるというモデルです。自分が持つ複数の銀行口座の情報を、一つのアプリケーション上に全部集約してくるような形になっているのです。「自分のデータは自分のものということで集めてくる」というのが、VRMの発想の基本的なコンセプトなのです。
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