遺骨をダイヤに、故人をしのぶための「手元供養」
墓の継承ができるかどうかわからないため、墓は作らず・持たずの人が増え、散骨も一般的な葬送の形としてきっと普及していくのでしょうね。また、霊園の樹木を墓標として遺骨を土中に埋める「樹木葬」も増えていると聞きます。こうした散骨や樹木葬など、墓の“無形化”の流れでは、ほかにどのようなものがありますか。

小谷:「手元供養」はその一つではないでしょうか。亡くなった父母など近親者や大切な人の遺骨を手元に置いておくという人が増えています(注*3)。もちろん、経済的に十分な余裕がないために墓を持たず、遺骨を家に置いておくという人もいますが、近くに置いてときどき話しかけたり、手を合わせたりして、身近にその存在を感じていたいという気持ちが強い人が選択するのだと思います。
(注*3) 「墓地、埋葬等に関する法律」では、遺骨を自宅の庭に埋めることは禁じているが、遺骨を自宅に安置しておくことは問題ない。
遺骨を骨壺の中に入れたまま安置するケースのほか、ペンダントなどに入れたり、ダイヤや石などのアクセサリーに加工して常に身に着けたりする人もいます(注*4)。故人の存在を常に近くに感じ、「生活の中で故人をしのびたい」「故人に見守っていてほしい」という気持ちの強い人は、こうした個性的な供養の方法を選ぶことも珍しくなくなるでしょう。
(注*4) 歌舞伎役者・中村勘三郎(18代目)さんが亡くなった後、寂しさや喪失感を埋めるために勘三郎さんの妻が遺骨の一部をダイヤにして身につけていたことが話題になったこともあった。

ちなみに、葬儀の簡素化や多様化といった変化は、日本に限ったものではなく、これは海外もほぼ同様です。ただし、発展途上国や未開の地域はいまも葬式は立派なものです。それは現在も相互に助け合わないと生きていけない社会であって、人間関係が濃密なことの証拠です。逆に社会が経済的に発展していけば、たいていのことはお金で解決できますし、人間同士の関係は希薄になりがちです。例えば日本では介護が必要になった高齢者は、介護施設に入ることが近年は一般的になりました。そうした社会環境も葬儀やお墓の変化に反映しているのです。
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