繰り返しになりますが、身の丈に合った治療をするということが大事です。そして患者さんには、正直に言わないといけない。うちはここまでしかできないから、高度な医療をお望みなら(別の)あの病院に行ったらどうですか、と。そういうシステムが、今はないんですよ。

街中の小さな診療所であれば、地域の大病院に紹介する制度もあります。

鈴木:開業医の先生方は、レピュテーション(信頼)が大事です。あそこに行ったら良くなった、という評判が積み重なって地域で不可欠な存在となります。

 ただ、地域の中核病院と言われるような病院は、プライドもあるし、患者をお断りすることもやりにくい。「あそこへ行ったら結局、がんセンターを紹介されちゃった」と言われたら、それはそれでレピュテーションが落ちちゃうわけです。だからこそ、病院間できちんと患者を紹介し合うような仕組みを、制度として作った方がいいと思います。

 最近も地方の国立大学で起きてしまいましたが、経験があまりない医師が無理な治療を試みて、問題になりました。本人は一生懸命にやっていたんでしょうが、身の丈に合った医療をしないと被害を受けるのは患者さんです。これは絶対に、避けなければなりません。

医療ドラマでは、医師の虚栄心から無理な手術に走るというのは良くある筋書きですが、実際の現場でも似たようなことが起きているのですね。

鈴木:医学の世界だけではなくて、原理原則というのはどこも同じです。やはり「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」に尽きます。この言葉はまさに真理を突いていて、患者さんの体、病気の進行度、自分の力量、同時に自分の病院のキャパシティーを知って初めて、自分たちでオペできるかどうかが決まります。

 だから全国からいろいろな問題を抱えて、順天堂大学にいらっしゃる方がいます。手術前は本当に心配していた患者さんも、僕らとリスクを共有して、一緒に乗り越えていこうというような治療をした場合は、ほとんどうまくいきます。だから、無理なものは最初から無理だということはちゃんと言います。

次回に続く)

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