相性が悪い、とはどういうことですか。

鈴木:スポンジを火であぶるようなもの、と言えばイメージしやすいでしょうか。放射線を照射すると肺の組織がボロボロになって、機能しなくなってしまいます。だからできるならば、手術できれいに取った方がいい。肺がんの治療ガイドラインも、今そうなっています。

 進行している肺がんに対しては、放射線、抗がん剤をやった後に手術とか、総動員してやる。そうすると手術はすごく難しくなる。リスクが高くなるので、外科医としてはあまりやりたがらない。そのため、全国から順天堂大学医院に来る患者が増えています。

症例数
順天堂医院の呼吸器外科手術数。2008年に鈴木健司教授が着任してから、症例数が着実に増えている

肺がん患者の「最後の砦」のようになっているということですか。

鈴木:そうですね。だいたい2つのパターンがあって、1つは病変がすごく大きくて取れそうもないというパターン。病変が大きいと放射線治療もやりにくい。照射しなければならない部分が広くなってしまうからです。

 もう1つが病変は小さいけれども、その患者さんの心臓が悪い、あるいは腎臓が悪い。そういうリスクがあると、手術自体は簡単なんだけれども、手術そのものに耐えられない。

 専門的には「耐術能」とも言うんですが、そういう場合もリスクが高くなるので、術後合併症(手術などの後に、それらが原因になって起きる病気)が起こって患者さんが亡くなってしまうリスクが高まります。それを恐れて、手術を回避しようとする外科医もいます。そういう、オペをしてもらえなくてウチに来る患者さんもいらっしゃいますね。

 やっぱり、医者と患者さんとでは、情報の非対称性がすごく大きいのが実情です。医師から言わせてもらえば、患者さんを誘導することは容易なんです。どんなに簡単に終わる手術でも、患者さん側から「手術は結構です」と言わせることができます。別に、うそを言うわけではありません。例えば0.1%の確率で起きることでも、言い方によって患者さんはより深刻に受けとめる。結果として、手術は回避されることになります。

 ただ、そのこと自体は決して、医師が責められることではないと思っています。私もそうですが、外科医として、自分でできない手術まで引き受けることはできません。やってはいけないことだとも思います。

人の命を預かる責任がある、からですか。

鈴木:そうです。やっぱり、自分ができる範囲で引き受けるしかないと思っています。

 「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」──私はこの孫子の言葉が大好きで、まさに手術の神髄を言い得ていると思っています。各外科医、各施設によって身の丈に合った臨床、手術を展開することが肝要だということです。

 例えば、順天堂大学病院でできることと、国立がんセンターでできることも違います。私はがんセンターに10年以上も勤務していましたので、よくわかりますが、がんセンターには、循環器専門医はいないし、糖尿病の専門医もいません。順天堂は総合病院なので、リスクの高い方の手術にも対応できます。市中病院だと、もっとリスクは負うことはできません。