ただ、その少し前にMoment FactoryのR&Dワークショップでクリエイティブチームが夜に自然の中でパルクール(走る、飛ぶ、登るといった人間の基本動作を用いたスポーツ)をするという提案をしていました。コアティクックから相談を受けた1週間後、実際に現地に行って公演を見た時にパルクールのアイデアが使えるかもしれないと思った。結果的に、それがナイトウォークという案につながりました。

 依頼を受けるかどうかは大勢の人々が関わることのできるものかどうかで決めます。ゲームや映画のように一人で見るもの、あるいは一人の世界に没入するバーチャルリアリティなどは手がけません。Moment Factoryがフォーカスしているのは大人数の集団をつなげること。われわれが作り出す空間で様々な集団が一緒になる。重要なのはそこです。

Moment Factoryが2014年に手がけたForesta Lumina。これまでに60万人以上が来場した。「開業前は来場者を1万人と見積もっていたが、2014年の初年度に7万2000人以上がここに来た」とゴルジュ・ド・コアティクック公園のカロライン・セージCEOは語る(動画:Moment Factory)

2014年にオープンしたForesta Luminaは自然を活用しているという点で、これまでのMoment Factoryのプロジェクトとは異なります。

ドミニク:Luminaシリーズのアプローチは「本物であること」です。通常のテーマパークは想像から生み出されたアイデアで、新しい空間をゼロから作っていきます。一方、Lumina は全くの逆。投射する物語は地元に伝わる実際の伝承です。クリエイティブも既にある本物の森の中で進められる。従来のテーマパークとは正反対のアプローチだと言えます。

日本のアニメ映画、忍者映画を見てきた

 われわれはその地域に実際に滞在し、地元の人々と話し合います。そうやって地元の物語を聞き出し、それを映像のストーリーに変えていきます。

 Foresta Luminaに登場するマーガレットはコアティクックの人々が子供に語り継いできた女の子です。彼女が森の精霊を呼び出して、悪魔のささやきから人々を守ると言われてきました。もちろん、森には一切手をつけていません。物語を提供するために、森を利用しただけです。

 伊王島のIsland Luminaも地元の物語をベースにしています。モントリオールで作ったコンセプトを持っていったわけではありません。

モントリオールのノートルダム大聖堂の荘厳な装飾を生かした光のショー(動画:Moment Factory)

実際に見ましたが、ノートルダム大聖堂の内部で実施しているプロジェクション・マッピング、AURAも大聖堂の建物にまつわる物語でした。

ドミニク:大聖堂は既に音声と照明を使ったショーを10年ほど実施してきました。ただ、あまり人気がなく、日に50人しか料金を払って見に来ない状況でした。そこで、ショーの質を高めるために、大聖堂にまつわる物語を元にして建物の魅力を高めようと提案したんです。

 AURAも日本に持ち込もうと思っています。今回の大聖堂はカトリック教会でしたが、日本のお寺で。詳細はまだお話しできませんが……。