イベントの演出として今や当たり前になったプロジェクション・マッピング。建物や橋などの構造物にデジタル映像を投射する光のアートショーだ。元々はライブコンサートの演出などに活用されていたが、最近は森や海など自然そのものも投射対象になっている。

 カナダのモントリオールに本拠を置くMoment Factory(モーメントファクトリー)は、この世界で最先端を走る世界屈指のデジタルアート集団だ。

 マドンナによるスーパーボウルのハーフタイムショーを筆頭に、スペイン・バルセロナのサグラダファミリアやレッド・ホット・チリペッパーズの欧州ツアー、米ロサンゼルス空港やシンガポール・チャンギ空港など、世界レベルの大イベントや大規模施設の演出を担当した。日本では安室奈美恵のファイナルツアーを手がけたことでも知られている。

安室奈美恵のファイナルツアーも手がけた(写真:Moment Factory)
安室奈美恵のファイナルツアーも手がけた(写真:Moment Factory)
カナダ・モントリオールにかかるジャック・カルティエ・ブリッジのライティング(動画:Moment Factory)

 最近はこういったイベントだけでなく、“Lumina(ルミナ)”というプロジェクトにも力を入れる。公園や動物園、島や熱帯雨林などの自然に、その土地に伝わる伝承を光の物語として投射していくのだ。テーマパークのような構造物を新たに作るのではなく、既にあるものに付加価値を加えて観光客を呼び込む取り組みだ。

 日本での活動も加速させており、今年4月に長崎の伊王島でIsland Luminaをオープンさせた。また、吉本興業と大阪でのプロジェクトも進めている。

 プロジェクション・マッピングの地平を切り開くMoment Factory。同社を創業したドミニク・オーディット氏にプロジェクション・マッピングとエンターテイメントの未来を聞いた。

(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)

アップル、ソニー、パナソニックが三種の神器だった

今でこそMoment Factoryはグローバルに活躍していますが、元々はあなたとサクシン・バセット氏(共同創業者)が2人で始めたと聞きます。

ドミニク・オーディット(以下、ドミニク):2人ともレイブパーティのビデオジョッキーだったんですよ。主催者としてエレクトロニックダンスのパーティを開いていました。1990年代後半の話です。

 レイブパーティは特に映像が多いので、ビデオジョッキーは映像をよく使います。その頃の技術はアナログからデジタルへ移行していたところで、機材はどんどん安価になっていました。ソニーやパナソニックのような装置で大規模なプロジェクション・マッピングを安価に実現できるようになっていたんです。それで、2001年にMoment Factoryを設立しました。

次ページ 手掛けるのは大勢の人々が関わることのできるもの