2%の物価目標は変えられない

潜在成長率を上げるための構造改革を、日銀はもっと政府に迫る必要があるのでは。

白井:政府はやれることはやってきたと思います。潜在成長率の低下の背景は少子化だけではありません。生産性の伸び悩みもあります。それと少子高齢化から来る漠然とした市場の縮小感があります。高齢化も、あと何年生きるか分からないということで、収入の不安を大きくしています。政府はやれることはやってきましたが、潜在成長率を上げるところまではいっていないのでしょう。

 ただ、繰り返しですが、日銀の金融緩和だけで潜在成長率を高められるわけではありません。既に今は、十分緩和的です。総括検証では、どうやって広角的に効果を生むようにしていくかということを真摯に言わないといけないでしょう。

総括検証では、2%という物価目標や、その達成時期を変える可能性があるでしょうか。

白井:今、家計や企業は2%の物価目標を支持してはいないが、修正するのは難しいと思います。

 ただ、なぜECB(欧州中央銀行)やFED(米連邦準備制度)や、イングランド銀行など、欧米の主要中央銀行が2%を掲げているのかに目を向けなければいけません。

 理由の1つは、金融政策を柔軟に使うためです。どんな国でも景気循環は避けられません。景気は後退もあれば過熱もあります。その時、国の財政出動など財政政策は国会が開催されている時でないとできません。時間がかかる。

 景気後退の時に機動的に対応できるのは、(中央銀行による)金融政策です。すると、金利自体を上げたり、下げたり出来る水準にしておく必要があるのです。

「2%という目標を掲げながら、当面は1%を目指しましょうというふうにやっていくのがいいと思います」

まずは1%を達成、そこから次を議論

とはいえ、日本で2%の物価上昇率目標を3%にするといったことは、非常に難しい。

白井:だから2%という目標を掲げながら、当面は1%を目指しましょうというふうにやっていくのがいいと思います。そうすると、家計や企業は安心するでしょう。そして、1%を達成したら、今一度、政府と日銀と国民が議論をして、さらに2%を目指すかどうかを最終決定する。そういう方法もありだと思います。総括検証でも2%の維持を書いてくるでしょう。

では、総括検証では、2%を達成する時期はどうなるでしょう。

 今回の総括検証では、日銀は冒頭話した2つの経路が効いていないこと認めざるを得ないでしょう。その一方で、日銀は物価目標の達成時期を2017年度中としてきましたが、これが日銀自身を苦しめてきた。その時期が近づいても物価目標が達成できそうにないと、市場はさらなる金融緩和を期待し始め、それが日銀には“圧力”となるからです。

 しかし、今回検証をするということは2%の達成に時間がかかるのを間接的に認めることになります。とすれば、2017年度としてきたものがいつになるのか、言うべきでしょう。

今後の緩和の方法・枠組みはどうなるのでしょう。年間80兆円の国債を買い増しているのをさらに増やす、あるいは減らすなどの変更はあり得るでしょうか。

白井:資産買い入れはきしみが出てきている。銀行や生命保険会社、年金など国債運用を1つの柱にしている機関への影響も大きくなり、続けるのは容易ではなくなっています。

 だから、近いうちにより持続できる緩和に変える必要がある。これ以上買い入れを増やすのではなく、買い入れ額は減らす必要があると思います。しかし、それだけだと金利が急騰するし、これまで日銀が言ってきたこととあまりに違うので、買い入れ縮小と、マイナス金利幅の拡大を合わせて行うのが1つの策ではないでしょうか。

 マイナス金利の深堀りで、(国債の中でもより年限の短い)短期、長期のところの金利を下げることができるようになる。これが一番健全な方法ですよ。

9月はマイナス金利の深堀りだけ?

総括検証とともにそれを実施するでしょうか。

 これは私の「べき論」。9月の決定会合で、黒田総裁はこの組み合わせはやらない可能性が高いと思います。すると、何があるでしょう。もうETF(上場投資信託)は6兆円の買い取りまで決めて、色んな問題も出ているので、これ以上増やすことは出来ないでしょう。

 一方、国債の買い入れだけを行うかというと、買い入れを積み増すと(短期金利から超長期金利まで金利差が縮小する)フラット化がさらに進む。しかも、資産買い入れが累積することでよけいに金利を下押しする効果があるため、弊害が大きくなる。それは分かっているはずだから、これは行わないでしょう。結局、マイナス金利の深堀りだけになるのでは。