2013年4月に始まった日銀の異次元緩和。今年1月にはマイナス金利導入にまで踏み込んだが、物価は上がらない。その日銀が、これまでの緩和効果とその背景を分析し、今後の金融政策につなげる総括検証を9月下旬公表する。3月に日銀審議委員を退任した白井さゆり・慶大教授に見通しを聞いた。

(聞き手は田村賢司)

日銀は9月20~21日の金融政策決定会合で、3年余りの異次元緩和について、「総括的な検証」を行います。何が論点になると見ていますか。

1989年、慶應義塾大学大学院修士課程修了。1993年、コロンビア大学経済学部博士課程修了(Ph.D.取得)。1993年、国際通貨基金エコノミスト、1998年慶応大助教授を経て2006年から教授。2011年4月から2016年3月まで日銀政策委員会審議委員。主な著書に『超金融緩和からの脱却』(日本経済新聞出版社)など。

白井:まずなぜ、総括検証をすることになったのかを考えた方がいいでしょう。今年1月にマイナス金利を導入しましたが、国民からも金融機関からも評価する声は少ない。「黒田バズーカ」といわれた2013年4月の大胆な量的・質的緩和(QQE)以後の効果や課題を含めて、検証をする必要があるということになったのだと思います。

 実はQQE導入から2年たった昨年4月にも、日銀は「検証」を行っています。前回は、背景説明といって、日銀の事務方が書くものでした。(自分も今年3月までメンバーだった)政策委員会が責任を持って書くものではありませんでした。ところが今回は、改めて総裁が書くことを指示したということで格上げになった。それだけ重要度が違うわけです。

家計と企業は物価上昇を支持してない

何が変わるのですか。

白井:当然、前回との比較が行われるはずです。前回は、物価目標2%の達成に向けてどう進むかということで2つの経路を説明しています。

 1つは大胆な金融緩和を行って、人々の長期予想インフレ率を引き上げ、それによって現在の実際のインフレ率を上げるというものです。長期的に物価が上がると考えるようにすることで、足元でも物価は上がると感じるというわけです。

 2つ目は、実質金利を下げて、投資や消費など総需要を拡大。常に需要不足といわれる日本経済の需給ギャップを改善する。それによって物価を押し上げていくというものです。

 私が見るところ、この2つは機能していないように思えます。まず第1の経路ですが、家計(個人)や企業はどうみても2%の上昇を支持していません。家計は物価が高いと思っているし、これ以上上げて欲しくないというのが本音だと思います。

 それが分かっているから、企業も到底値上げは出来ないと感じています。ここ数年は、円安の影響で食品メーカーなどは時間をかけてゆっくり価格を上げましたが、円高に転じてそこまで。どう考えても、家計も企業も物価上昇を望んでいません。だから2%の物価安定目標に信認があるとは思えないのです。