SAPは世界各地に「イノベーション・センター」を開設。デザイン思考を基に、新事業の開発や顧客との事業立ち上げプロジェクトを進めている。
SAPは世界各地に「イノベーション・センター」を開設。デザイン思考を基に、新事業の開発や顧客との事業立ち上げプロジェクトを進めている。

 じゃあ、決断のタイミングはいつなのか? 正直言って、それは私にも分からない。アートのようなものだ。

 しかし、だからと言って、諦めることはできない。会社を永続させたいと考えるならば、常に準備をしておく必要がある。次の自分の競合は誰なのか、アンテナを張っておくべきだ。

デザイン思考で意識を解放

SAPは「デザイン思考」を積極的に取り入れている企業としても知られています。組織を変える上でデザイン思考はどう役立ちましたか?

プラットナー:デザイン思考に使うテクニックは、組織の力を刺激し、解放するにとても役に立つものだ。

 特に共感するのが、「顧客の課題は何か」という視点から常にスタートすることだ。本当のニーズは何かを一生懸命に探すということだな。

 米スタンフォード大学のデザインスクールの学生は、そのトレーニングのために、幼稚園児にインタビューをする。園児を楽しませるために、新しい玩具を与えるのがいいのか、あるいは違う園庭を作るのがいいのか。

 ここで学生たちが認識するのは、コミュニケーションが非常に大切だということだ。園児の本音を聞き出すためには、信頼を獲得しなくければならない。イノベーションに不可欠なコミュニケーション力を養うことにつながる。

 デザイン思考は、無意識のうちに課している制約からも解放してくれる。人は知らぬ間に、「自分にはできない」とキャップをはめてしまうことが多い。

 デザイン思考のテクニックは、グループで取り組むのも特徴だ。製品やプロトタイプを、チームを作って互いに知恵を出しあいながら、難題に挑戦する。こうした手法はSAPを変える際に役だった。

これからのSAPはどう変わっていきますか。

プラットナー:個人的には、ヘルスケアの分野に関心がある。難病の治療は、世界的な課題だ。この分野に、HANAの技術が貢献できると信じている。

 それ以外にもHANAは様々なビジネスや社会的課題に生かせるだろう。HANAがこれから世界をどのように変えていけるかを考えると、私は興奮して眠れない。信じられないだろうが、まるで、クリスマスツリーの前にいる子供のような気分だよ。

 今では、競合のマイクロソフトもIBMもHANAの脅威には気づき始めた。しかし、我々に追いつくためには、難しい決断が待っている。彼らの主力製品であるデータベースソフトから、HANAのようなインメモリーデータベースへの移行をいつ決断するかだ。それがジレンマ克服の一歩となるわけだが、なかなか難度は高い。

 当初、彼らが我々に追いつくのに2年はかかると思っていたが、今はあと3年は必要なのではないかと思い始めている。それほど、イノベーションのジレンマを克服する決断は難しい。

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