
米インテル創業者のアンディ・グローブが「パラノイア(偏執症)のみが生き残る」と言っていたが、これは正しい。新しいイノベーションを生むためには、パラノイアになるのは必要なことだ。もちろん、自分自身がパラノイアでいるのが理想だが、誰もがそうなれるわけではない。その場合は、パラノイアに任せるわけだ。
大学には、そうした研究熱心な学生がたくさんいたんですか?
プラットナー:従来の発想にとらわれない、若くて情熱的な学生にあふれていた。彼らには、プレッシャーとなりそうなものを極力取り除いてあげた。「何か新しい発見をしろ」「採算が合うか」といった言葉は一切かけない。大学の近くに、気兼ねなく議論できるように家も借り上げた。
そんな中から、HANAの根幹をなす技術のアイデアが生まれた。SAP社内で開発していたら、間違いなくこの構想は途中で潰されていただろう。前例のない技術、採算が合うか不透明、おまけに開発者の実績はなし。絶対に話が進まなかったはずだ。
HANAはプロトタイプができるまで、できるだけSAPから遠ざけ、伏せておいた。結果的に製品として完成したのはSAP社内だが、その芽と情熱は社外から注入したものだ。インプラント型の改革と呼んでもいいかもしれない。
HANAは結果的に、停滞していたSAPを再生する製品になりました。
製品の切り替えをいつ決断するか
プラットナー:これは結果論だが、SAPは良いタイミングでHANAを投入できた。
社外で開発することに加えて、イノベーションのジレンマを克服するもう一つのポイントは、製品の切り替えをいつ決断するかだと思う。
例えば、自動車業界を見ればそれがよく分かる。彼らが直面している課題は、ガソリン車の時代から電気自動車にどう移行するかだ。
BMWなどガソリン車で築き上げた成功企業は、簡単には移行できないだろう。
もちろん、BMWだって電気自動車は開発済みだ。米テスラ・モーターズと同じ性能のクルマを作ることなど難しいことではない。問題は、新しい技術にいつ全面移行するかを決めるかだ。顧客にいつ、「5シリーズはもうガソリン車ではなくなります」と宣言するのか。BMWの消費者はあのガソリンエンジンの音を聞くためにBMWを買っている。それを変えるのは、とても大変な作業だ。
大切なのは、既存のマーケットで収益を稼ぎつつ、一方で新ビジネスに力を入れる必要があるということだ。イノベーションは決して博打にしては駄目で、常に継続的な収益のある中で考えなくてはならない。
遅れれば、命とりになる。ソニーのウォークマンが米アップルのiPodに、ノキアの携帯電話がiPhoneにとって代わられように、タイミングがずれれば会社自体の存亡に影響しかねない。自動車業界も、テスラが急成長している。
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