ドイツの企業向けソフト大手、SAPの業績が好調だ。2016年4~6月期の売上高は、前年同期比5%増の52億3700万ユーロ(約5860億円)、営業利益は同81%増の12億6900万ユーロ(約1430億円)。直近5年の売上高成長率は約10%(年率)と、競合する米オラクルや米IBMを大きく上回る。

 ERP(統合基幹業務システム)ソフトの大手として知られる同社だが、この5年で収益構造は大きく変わった。2010年12月期にはERPソフト関連の売り上げが9割を占めていたが、2015年12月期には6割程度までに低下。決してERPの売り上げが減ったのではなく、新型データベース「HANA(ハナ)」を中核とした「新ビジネス」が急伸しているのだ。

 5年で急成長した新ビジネスの詳細、そして2000年代に陥った知られざる危機については、日経ビジネス8月29日号の「企業研究SAP 革新のジレンマ克服」をぜひお読みいただきたい。

 ここでは、SAPの創業者の1人であり、2000年代の危機を救ったハッソ・プラットナー氏のインタビューをお送りする。トレードマークの白い髪と、恰幅のいい体格。72歳となった今も取締役会議長としてSAPの経営を監督する一方、ポツダム大学の教壇に立ち、若い学生相手に白熱した授業を展開する。そのカリスマ性は色褪せておらず、ドイツ国内外で高い人気を誇る。

 「停滞していたSAPが再び走り始めた」と安堵の表情を浮かべるプラットナー氏。同社が陥ったイノベーションのジレンマ、その克服の秘密を聞いた。

(聞き手は 蛯谷 敏)

ハッソ・プラットナー(Hasso Plattner)氏
SAP取締役会議長、チーフ・ソフトウェア・アドバイザー。1944年生まれ。72年、ドイツのヴァルドルフで米IBMの仲間4人と共にSAPを創業。技術者として、基幹製品であるERPソフトの開発を主導し続けた。97年から2003年まで会長兼CEO(最高経営責任者)。カリスマ経営者として、今も社内外で高い人気を誇る。(写真:Andrew Mathenson)

SAPの業績が好調です。

プラットナー:SAPが立ち止まることなく、成長に向けて再び前に進みだしたことに、今は心から安堵している。すべては、2010年に発売したHANA(編集部注:同社が開発した新型データベースソフト)のおかげだよ。

 SAPは今後、すべてのERPアプリケーションをHANAという基盤の上に乗せていく。当初は、HANAの性能に対して疑心暗鬼だったユーザーも、次々とそのポテンシャルに気づき始めている。HANAは製品として完全に離陸した。

SAPはERPソフトで今も圧倒的なシェアを持っています。その強さが逆にクラウドサービスの拡大を阻害してきたと言われてきました。ERPの次が見えないと批判され、いつまでも変われない「恐竜」とも揶揄されていました。

プラットナー:そうした評価はじきに当てはまらなくなるだろう。

 確かに、SAPはHANA投入まで、2000年代後半は苦しんでいた。ERPソフトが強すぎた。だから、クラウドサービスが登場しても、SAPのビジネスとは関係ないと思っている人間が多かった。

 危機意識を持っていた社員もいただろう。しかし、残念なことだが、たとえそんな人間がいたとしても、巨大組織を変えることは難しい。既存のビジネスを前提としてあらゆる組織や仕組みがデザインされているからね。