中国をはじめとした新興国市場が減速した今、個人消費が安定している米国市場は日本企業にとって最大の収益源といっても過言ではない。事実、2015年に日本企業は米国市場から配当などで6兆円近くを吸い上げた。もっとも、そんなビジネスフレンドリーな米国にも落とし穴は存在する。反トラスト法違反における厳しい制裁はその一つだ。

 2010年以降、自動車部品メーカーを中心に、価格カルテルの罪に問われる企業が相次いでいる。過去5年で、カルテルや談合で投獄された日本人は30人を超える。つい最近も、日立オートモティブシステムズがショックアブソーバーにおける価格操作を認めて約56億円の罰金を支払うと発表した。他の外国企業も制裁を受けているが、厳しい制裁を受けるのは群を抜いて日本企業が多い。

 なぜ日本企業ばかりが反トラスト法で制裁を受けるのか。社員の収監や罰金を防ぐためにどうすればいいのか──。反トラスト法に強いコンスタンティン・キャノンのアンカー・カプール弁護士に話を聞いた。

日本企業が反トラスト法の対象になることが多いのは事実

2010年以降、数多くの自動車部品メーカーが価格カルテルの罪に問われました。この状況について、率直にどう思いますか。

アンカー・カプール(Ankur Kapoor)氏
コンスタンティン・キャノン・パートナー
反トラスト法の専門家として数多くの訴訟や助言に関わっている。航空業界の運賃談合におけるクラスアクションなど、日本企業の弁護にかかわることも多い。(写真:Mayumi Nashida)

アンカー・カプール氏(以下カプール):米司法省が日本企業を特にターゲットにしているというわけではないと思いますが、数字を見れば、日本企業や日本のビジネスパーソンが他のいかなる国よりも反トラスト法の対象になっているというのは事実です。本当に理解しがたい、信じられないほどの数ですよ。

 実のところ、私は司法省が発表している規模で価格カルテルが行われていたとは思っていません。対象となっている部品の種類、関与した企業の数、実際にカルテルをしていたとされる期間の長さを考えても、それだけの規模と期間で価格を操作し続けるのはとても難しいと思います。

司法省が言うほどにはカルテルが存在していないと?

カプール:いくつかの価格操作は実際にあったでしょう。ただ、実際に起きたことのかなりの部分は日本のビジネス文化や慣習と、米国で反トラスト法を執行する際のコンフリクト(衝突)によるものだと考えています。

 日本のビジネス文化では、礼儀という面で、あるいは社会的な慣習として、競合他社の人間に会うことは珍しくありません。最近でこそ、競合同士が集まる場所で、価格など特定のトピックを話すべきではないということを理解するビジネスパーソンは増えていますが、仮にセンシティブな話題に出た時に、異議を唱えたり、はぐらかしたりするのは失礼に当たると考える人もまだいると思います。

 そういった人々が「確かに、価格が少し安すぎますよね。何か対応を考えた方がいいですよね」と相づちを打ったとしても、それが価格操作に対して同意したということには普通はなりません。明晰な司法省の人々も、きっとそう思うでしょう。ただ、仮に社内を調べる過程で企業が先のようなコメントを見つければ、罪状を認めるという大きなインセンティブになってしまう。