あらゆる産業分野で競争のあり方を変える可能性があるIoT(モノのインターネット)。特定の産業用機器だけではなく、最近は一般消費者が利用できる新たな製品やサービスも次々に生まれている。この5月からホームセキュリティ分野で低価格のサービスの本格展開を始めたセキュアル(東京都渋谷区)の青柳和洋CEO(最高経営責任者)に、BtoC分野におけるIoTのポテンシャルや同社の戦略について聞いた。
IoT(モノのインターネット)については様々な製品やサービスが生まれつつあります。セキュアルはなぜ、ホームセキュリティ分野をターゲットにしたのでしょうか。
青柳和洋[あおやぎ・かずひろ]氏 PDM(製品データマネジメント)メーカーにてソフトウェア製品開発、導入プロジェクト推進、ITコンサルティング会社での製造業向けコンサルティングを経て、国内初の中小・中堅製造業向けクラウドサービス構想を企画。クラウドPDMサービスを皮きりに、多数のクラウドサービスの立上げ、国内外での展開に貢献。大手経営コンサルティングファーム デロイト トーマツ コンサルティングを経て2014年6月イグニション・ポイント株式会社設立、代表取締役社長に就任。翌年、スピンオフとして株式会社セキュアル(Secual)設立、同社CEO就任。
青柳:あるとき、地方のセンサーメーカーの方と話す機会がありました。その会社は非常に優れたセンサーを持っていても、それをどうやって新しいサービスにつなげていけばいいかというアイデアやノウハウがなくて悩んでおられた。日本国内には、地場メーカーも含めてそうした会社が多く存在するのではないでしょうか。
イグニション・ポイントというコンサルティング会社を立ち上げており、事業戦略アドバイザーという立場から、そうした優れたセンサーなどの技術を持った会社が、どのようにサービスを立ち上げ、展開していけばよいのか、また、ものづくり大国でもあった日本の優位性をどう生かせばよいのかを考えていました。クラウド、IoT、ディープラーニングなど次々にテクノロジーが進化する中、コンサルティング会社も最新テクノロジーを無視し過去のベストプラクティスからの助言だけで生きていくことが難しくなっています。そこで、私たちは実際に先端技術を活用したビジネスを立ち上げ、実践していくことでそのノウハウを獲得しようと考えました。
中でもホームセキュリティに着目したのは、市場として大きなポテンシャルがあると考えたためです。世界のホームセキュリティの市場規模は約3兆円とされ、2020年までに約5兆円に拡大するといわれています。また、普及率は欧米では20%近くあるのですが、日本ではまだ2%程度とこれからの大きな可能性を秘めています。
近年では「民泊」市場が注目を浴びるなど、急激な訪日客の増加に伴って日本にもグローバル化の波が押し寄せており、ホームセキュリティニーズの高まりを感じています。2%の普及率が3%になるだけでも、セコムさんぐらいの規模の会社がもう1社増えることになります。日本では長年、ホームセキュリティのプレーヤーが大きく変わっておらず、その意味でもイノベーションが求められているはずです。チャレンジしがいがあると判断しました。
使いながら賢くなる
「セキュアル」の基本的なサービスの内容は。
青柳:加速度センサーを窓やドアに設置し、振動や衝撃、開閉を検知するとゲートウェイからアラーム音が出る仕組みです。同時に、専用アプリを入れたスマートフォンに即時に通知が届きます。アプリでは、家族など複数の通知先を設定することも可能です。
従来のセキュリティ会社のシステムでは、ドアの開閉をマグネットセンサーで検知するものが一般的でした。設置工事が必要なことに加え、窓ガラスを割られたら検知できないという弱点があるため、カメラや音感センサー、赤外線センサーなどを組み合わせています。結果、システム全体が”派手”になって設置の手間や煩雑な操作が必要になり、コストがそれだけ肥大します。
それに対し我々のサービスでは、加速度センサーだけで侵入を検知できるという特徴があります。また、センサーが得た情報をサーバ側で持つデータと照らし合わせて解析することで、新しい価値を作れるのも強みです。
単に窓が開いたかどうかを検知するだけではなく、窓の振動のパターンや特徴をユーザーごとに分析することが可能です。不自然な窓の振動があったとして、それが外部からの侵入者によるものなのか、それとも風によるものなのか。他システムからのデータ、オープンデータなどと連携・補完し、データディープラーニング(深層学習)によって振動パターンを分析することで、警報の精度を向上させることが可能です。
使いながら賢くなる。
青柳:そうですね。我々のシステムでは、クラウド側に主な機能を持たせているので、ハードはそのままでも性能だけでなく機能も追加、改善できます。
現在は機能を防犯に特化させていますが、高齢者の見守りについても多くの問い合わせを受けています。例えばトイレや冷蔵庫のドアにセンサーを設置し、一定期間反応がない場合に通知するといった使い方で、近い将来に機能をリリースする予定です。それ以外にも、対象となる地域に住むユーザーだけに、地震情報や気象警報を音声で通知するといった機能も追加できます。
センサーから得られるデータを活用する事業の展開も想定しています。例えば、建設中のビルであれば、さまざまなデータを取っていますが、建設された後のビルでは、風をはじめとして建物にどのような影響を与えるかのデータを得ることができませんが、利用者の振動データから分析することができるかもしれません。また、建物の住人が、室内でどのような行動パターンを示しているか、窓から得られるデータもあると考えています。
ホームセキュリティ以外にも用途が広がると。
青柳:空き家の監視という相談もよく受けます。オークション詐欺の受け取り場所にしたり、覚せい剤の売買に使われるなど、最近では空き家が犯罪に使われる問題が深刻になっています。そうしたことがあれば「事故物件」扱いとなり、貸せなくなってしまうリスクもあります。
人の出入りを監視するニーズがあるのは民泊向けも同じで、例えばドアにセンサーを付けておいて、利用時間にセキュリティを解除し、チェックアウト後にセキュリティ機能をオンにするといった利用の仕方もあります。
「駆けつけ」なども順次展開
利用料金が普及のカギになりそうです。
青柳:月額利用料は1ゲートウェイ当たり980円です。設置するハード類の価格はゲートウェイが1台5500円で、センサーは1台3500円。窓の数などによって複数のセンサーを設置可能で、ゲートウェイ1台につき10台のセンサーに対応可能です(価格はすべて税抜き)。
日本では、ある程度の収入がなければ自分の家を守れないというのが現状です。ある調査では、世帯年収1000万円以下でホームセキュリティを導入している世帯は1%未満。同1000万~1500万円で3.1%、1500万~2000万円で4.3%、2000万円以上で14.7%となっています。つまり、所得格差が「セキュリティ格差」につながっているのです。
業界大手の各社はホームセキュリティを核に、街全体のセキュリティに取り組むなど、より広域・ハイエンドの方向に現在の資産を活用する戦略を進めています。その中で我々は、「富裕層重視」とは異なる戦略をとることで、新しいポジションを築いていきたいと考えています。
販売目標や売れ行きの状況は?
青柳:販売開始から1年間で1万台の出荷を目標においています。今までスマートホームやホームセキュリティ系ベンチャーがさまざまな製品をリリースしていますが、その中でもかなり強気な目標になっていると思います。販売開始から約2カ月が経過したところですが、既に初期ロットの1000セット分が完売し、その数倍のセット数の契約まで完了しており、現時点では目標を上回るペースで契約を伸ばしています。
ECサイトで直接販売している以外に、不動産管理会社や建材メーカー、商社などの各地の販売代理店経由でも販売しています。家やアパートを建てる時に、最初から設置するといった動きも出てきています。
従来のホームセキュリティでは、警報が鳴ると警備員が駆けつけてきますが、セキュアルではありません。
青柳:我々は自前では、警備員が現場に急行するサービスは手がけません。アンケート調査を実施したところ、ホームセキュリティを導入しない理由で圧倒的に多かったのが、「コストが高い」というものでした。また利用者に聞いたところ、「警備員が駆けつけてくれても何もやってくれなかった」という不満が多くあることもわかりました。警備業法にのっとった警備会社は、すぐに現場に駆けつけられるように一定の条件で拠点を置かなくてはなりませんが、それによって料金が高くなるくらいなら、省いたほうがいいと。
ただ、警備員の駆けつけについては、一定数のニーズもあり、警備会社との提携など、追加オプションを前提にサービスを強化していく予定です。
外部の企業と連携してどんどんサービスを追加していく戦略ですか。
青柳:そうですね。例えばスマートロックと連携することで、カギを閉めたらセキュリティを自動的にオンにするといったことが可能になります。また、スマートカメラは通信データ量が大きすぎるという課題がありますが、振動を感知した時だけ作動させてデータを送るといった使い方も可能です。月額料金は低く抑えながら、次々にサービスを強化し、精度を高めていくことで、企業そのものの価値を高めていきたいと考えています。
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