昨年後半からでしょうか、トランプ氏の勢いが急速に高まる中、最終的に共和党の大統領候補になって行く過程で、政策は現実的なところに落ち着くのでは、という見方がありました。日本は動揺する必要はない、という期待です。

:それは期待はしたいんだけれども。ちょっとよく分からないですよね。もしも政権をとったときに、どういう人たちが経済政策のブレインなのか、全くく見えないですよね、外交のブレインも。

 いままでの常識とは違う政策を進めることを覚悟しておいた方がいいと。

:そういうリスクがあるということを覚悟しておいた方がいいと思います。

日本全体として、いまだ現実味がある「トランプ政権」に対して、準備不足ではないかと思います。

:そうですね。もしトランプ大統領が誕生したらというケースについては、明らかに準備不足ですね。もともと、そんなことはまずないだろうと思っていたということですよね。エコノミストも政治学者もみんな。失言をしても、失言をしても、人気が衰えなかった訳ですね。失言することによって、ようやく本音が聞けたという感情です。それで応援する人が増えちゃった。だから多くの人にとって、全く誤算だったんです。それだけ米国内が分裂しているというのを見ていなかったんだと思うんです。経済的に苦しくなって、どこまでいってもなかなか所得が増えないという人たちが、これは不法移民のせいだと、感じる。そういうところに来てしまって、社会が分裂しているんですね。

経済的な苦しさというものが、アメリカの外で見ていたよりもずっと大きかったということですね

:だと思います。そうじゃなければ、フランスの経済学者、ピケティ氏の『21世紀の資本』という本が、あれだけ米国で爆発的に売れることはなかったでしょう。民主党の候補指名をクリントン氏と争った、サンダース氏があれほどの支持を集めたのも衝撃でした。自らを「民主社会主義者」と言っていました。「民主」がついていても、「社会主義」という言葉を米国で堂々と言っているのですから。

トリクルダウンの限界

クリントン氏の政策が、例えば最低賃金の引き上げなど、かなりサンダース氏の方向に寄っているようにみえます。

:かなり組合寄りになっている。だから、そういう意味ではいろいろな政策も個別の産業の保護みたいな、そういうふうになりかねないんだと思うんです。雇用に影響が出ないようにとか、そういうふうな政策に傾きがちだと思います。

 こうしたクリントン氏の政策は、従来は米産業界が歓迎するものではないですが、今のところクリントン氏の方がいいという経営者が多いですね。

:トランプ氏は明らかにそれこそ戦争を起こしかねない。こんな予測不能なことよりは、クリントン氏の方がはるかによいということでしょう。

 トランプ氏の支持を集めるような、大衆の怒りというのは、どのように鎮めることができるのでしょう。

:大金持ちが、よりたくさん稼げば、そのトリクルダウンで貧しい人も豊かになるんだからというような、そういう発想でやってきたのだけど、どうもそううまくいかないんじゃないかということですね。それは、もう一遍考え直す必要があるんだと思います。米国でも最近は、本当にビジネスをつくった人たちが大金持ちになるんじゃなくて、その子も、孫も、何代も大金持ちという状況になっている。それはアメリカの「能力さえあれば」という話とはちょっと違うんじゃないかということです。日本でも教育にお金がかかるなどの理由で、格差が固定化されてしまう傾向にあるのは懸念されます。