文句を言われやすい日本

日本の自動車メーカーも米国に工場をもって現地生産している。輸出によって米メーカーのシェアを奪っているというトランプ氏などの主張は一面的ですね。

:日本車と言っても、現地で米国の人たちをずっと雇用して、作っているのですから。ただ自動車業界というと、どうしても米国のビッグ3の規模が大きいので日米の企業間の戦いみたいなところがあります。労働組合を支持基盤とする民主党は、もうちょっと日本車をブロックしろとずっと主張しているわけですから。トランプ氏が、そうしたムードをあおる可能性はあります。1980年代後半には、対日貿易赤字が増えたり、日本が米国で様々なものを買収したりして、「アンチ日本」のムードが広がりました。今は、日本よりは、韓国とか中国の企業の方が目立つわけで、あのときのようにはならないと思いますが、国の交渉の過程で、日本に対しても、いろいろ言ってくる可能性はあります。それと日本への輸出についても、かつては、規制とか規格の問題で、日本が何か変なことをやっているために、米国のものが売れないんだと言われました。非関税障壁だということで。そういう話が再燃する恐れはありますね。

トランプ政権になった場合、中国にもかなり強くあたることになるでしょうか。

:貿易赤字の額で言ったら、中国とやり合わないと意味がないんですが、どこまでやるか分からないですよね。たぶん中国は、交渉に全然乗ってこないでしょう。米国の金融業も中国でビジネスを拡大したいので、中国と本気で事を構えるという気はないと思うんですよね。そうすると一番、文句を言いやすいのは日本だというふうになりかねない。

そこが恐ろしいところですね。 環太平洋経済連携協定(TPP)はどうでしょう。クリントン氏、トランプ氏ともにTPPに否定的です。

:TPP自体は難しい状況でしょうね。オバマ政権のうちに議会を通してしまうという考え方はあるようですが。ただ今後、大統領選でディベートをやっていくと、両候補ともTPPには否定的な発言をせざるを得ないでしょうね。

TPP反対と言った方が、今のアメリカのムードからいうと、票が取れるということなんでしょうね。

:そうですね。格差の問題からいくと、グローバル化で生活が苦しくなったと、感じている人がたくさんいるので、票を取りやすいということじゃないですかね。

日本の政府などにとっては、かなりの誤算なのではないですか。

:まあ、そうですね。TPP自体が中国の経済的な覇権に対抗するという意味があったわけですよね。だけどトランプ氏はもう、米国は大事なんだけれども、世界全体で中国と対峙して自由主義とか、民主主義を守ろうとか、経済的なコンセンサスを守ろうという、そういう発想は全くないですね。米国のために一番、短期的に得になることしか考えない。TPPを推進して中国と対峙するよりは、中国が何か多少の妥協案を持ってくれば、そっちに乗ってしまうという、可能性もあるんじゃないかと思うんですよね。共和党の伝統的な主流派の「公正な貿易」などの理念はありません。トランプ氏はビジネスマンですから、ビジネス上、得になることであれば理念とかそういうのはどうでもよくてということだと思うんですよね。

トランプ氏、「大失速」とは言えない

米国の企業にとっては、中国市場というのは死活的に大事なので、むしろトランプ氏などを動かして、中国と取り引きをするとか、そういうシナリオは考えられませんか。

:そうですね。何かうまい話が出てきたときに、トランプ氏がそれに乗ってしまうというのはあり得ることかなと思います。

8月になって、トランプ氏の支持率が低下しましたね。イラク戦争で戦死したイスラム教徒の兵士の父親(パキスタン移民)に誹謗中傷を加えたのが理由です。今後の展開をどうみますか。

:一方でクリントン候補には私用メール問題というアキレス腱があります。深刻な経済格差による怒りがトランプ氏支持の背景にある以上は、トランプ氏が大統領になる可能性が大幅に低下したとは言い切れないと思っています。