予測は難しいかと思いますが、トランプ氏が大統領になったら、どのくらいまで円高が進むと思いますか。

:いや、どうですかね。1ドル=90円ぐらいまでは行くのではないですか。もっと進んでもおかしくはないですが。ただ80円台になると、もはや日本の輸出自体が持たなくなると思いますね。

「金融緩和で円安」との論は日本も責任

「為替を不当に操作している」という点でも当てはまるのですが、トランプ氏は「中国や日本」という具合に、乱暴に一緒にして話すことが多いですね。

:トランプ氏の頭の中は、1980年代の後半から90年代のバブルが崩壊した直後ぐらいまでの日本のイメージなんだと思うんですよね。アメリカの貿易赤字の中で、対日本の赤字がトップだったようなときの印象が、すごく強いんだと思うんですよ。だから日本が何か非常に不公正なことをしているといった思い込みがある。今の現実をみれば、赤字の大きな理由は、中国なのですが、頭が切り替わってないんだと思うんですね、完全には。相変わらず日本の企業がすごくてという、イメージを持っているようです。彼の議論は、例えば犯罪が多くなっているという話であっても、ちゃんとデータを見て言っているわけじゃなくて、感覚で言っているだけ、という面があります。

日本と中国はともに為替操作をしていると、考えているようです。

:そうですね。為替の操作は難しいところで、じゃあ、日本政府は介入したことがなかったのかと言われると、東日本大震災の直後ぐらいにやっているはずです。しかし少し前までの円安は金融政策の結果なのです。為替とか通貨の専門家の中で金融政策で為替が安くなってしまうのは仕方がないというのが、国際的なコンセンサスなんです。国内経済のために金融緩和をすることは、禁止はできない、仕方ないでしょうということになっているわけですよね。トランプ氏の頭の中では、そういう整理になっていないのでしょうね。

ただ、この辺は日本の側にも少し責任があります。「金融緩和をして円安にしろ」と言う人がたくさんいるじゃないですか。エコノミストや産業界の人も。日銀の人たちは金融緩和をしてインフレを引き起こす、あるいは、デフレから脱却するために金融緩和をするんだと、そういう言い方ですよね。だけどマスコミの論調も円高を止めるために金融緩和をするとか、どうしても為替と絡めて金融緩和を語る人が多いので、海外から批判を招きやすいんだと思うんですね。当然分かった上で、あえて言わないというふうにしないと、外交的にまずい。

ましてやトランプ氏が大統領になったら、攻撃の材料を与えてしまうことになる。

:相当注意して言わないと、自由に金融緩和ができなくなってしまう恐れもあります。

いわゆるアベノミクスに対して、米国はずっと歓迎の姿勢でしたね。

:当初、アベノミクスで日本経済が立ち直るのであれば、その方が世界経済にとってもプラスだからということで、比較的円安に振れていっていても、特にものは言わなかった。しかし、ヨーロッパがおかしくなってきてユーロ安もかなり進みましたよね。そして米国の利上げの話が出てくると、ドルが非常に高くなったわけです。ヨーロッパはどうしようもない状況で、米国は中国には文句は言っていますけど、なかなか動かない。そうすると、主要通貨の中で、日本までも通貨安政策みたいなことをやられたのでは、米国はもう本当にどうしようもなくなるので、せめて日本ぐらいはという雰囲気はありますよね。それにここまでずいぶんと円安の傾向に対して、我慢したという意識もあると思うんですよね。

少し前までの円安によって、どんな業界が最も恩恵を受けたと見ていますか。

:日本にとってはやっぱり輸出関連業界ですよね。自動車、電機、精密機械などです。輸出の数量は増えなかったんですが、採算がよくなったので利益は非常に上がったはずなんですね。実際に株価もすごく上がっているし。非常に恩恵を受けたと思いますね。ただ、かつて円安になったときには、製造業が日本国内に生産を回帰するような話が出ましたが、今回は結局、あまりそういう動きはありませんでした。本格的に生産拠点をまた国内に戻してしまうと、円が高くなったときに何もできないからというのがあったんじゃないですかね。実際に最近は、その通り円高に動いているので、彼らが正しかったといえば正しかった。そもそも、すでに世界各地で生産をして、世界各地に売るというやり方なのです。日本が生産基地になって、そこから世界中に輸出するというようなモデルじゃなくなっているわけですね。