(聞き手は鈴木 哲也)

東京大学理学部卒。同大学大学院理学系研究科修士課程修了。81年経済企画庁(現内閣府)入庁。92年ニッセイ基礎研究所、12年より現職。61歳、専門は経済政策。
主な著書に「日本経済の呪縛:日本を惑わす金融資産という幻想」。
共和党の大統領候補に指名された、トランプ氏が打ち出している政策は、これまで自由貿易を党是としてきた共和党の考え方とは大きく異なります。国際協調主義ではなく、米国第一主義と言っています。移民についても「メキシコ国境に壁を作る」という公約を取り下げません。トランプ氏が大統領になると、日本経済、そして日本企業にどんな影響を及ぼすでしょうか。
櫨:これまでのような「公正な貿易」といった原則ではなく、とにかく米国が有利になるようにと、主張しているのがトランプ氏です。もともと共和党は原理原則を重視し、民主党の方が結果を求めるという傾向があったのです。貿易については、共和党の場合には、他国に対して「不公正な慣行があるからこれを直せ」などと言って、民主党は日本の黒字が大きいという結果を問題にする傾向がありました。しかし、トランプ氏は共和党候補なのですが、完全に結果論なんですよね。結果として自分たちが割を食っているから、それは米国にとって何か不公正なはずだということになります」。だから、トランプ氏が大統領になったら、かつての民主党に見られたような、「とにかく何でもいいから黒字を減らせ」というような話になりかねないんじゃないかと、心配をしています。
為替の問題についても、トランプ氏は他国が通貨を不当に安くすることで、輸出を増やしていると主張していますね。
櫨:為替でも同様ですね。例えば他国が「市場に介入はしてないから、為替を操作しているわけじゃない」といっても、そういう理屈は通らなくて、例えば「米国の対日貿易赤字が大きいんだから日本が何かやっているに違いない」と。何かそのようなロジックですよね。「米国が勝てないのは、何かそっちがインチキしているからだろう」という攻め方になるのを心配しています。
日本との関係で言えば、もしトランプが大統領になったら、為替は相当の円高に振れていくでしょうね。
櫨:為替も本当に異常な動きの時があるわけで、従来の考え方でいけば、そういうときは政府が市場に介入することは、為替の安定のためには良いことだと思われていましたが、トランプ大統領になると、それもできないということになりかねないと思うんです。とにかく円高を止めるようなことをやると、それは何か操作をしているんだろうと、言われてしまうのではないか。そういう見通しになれば、マーケットとしても、ますます円高のリスクが高いんじゃないかと考えて実際に円高になるという。本当にそういうことが起きるかどうか分かりませんが、そうなりやすいと思います。
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