結局、今回の政策変更で日銀が気にしてきた副作用、つまり銀行の収益悪化と国債市場やETF買いなどによる株式市場の機能低下を改善することはできるのでしょうか。

加藤:日銀の金融政策決定会合議事要旨などから政策委員会がこれまで議論してきた副作用を整理すると、次の2つに大別できます。ひとつは、金融機関の収益圧迫が続くと経済のお金の流れが先行き悪化する問題です。もうひとつは市場機能が深刻に低下している問題です。

 インフレ率が弱い中では金利水準を引き上げづらいため、前者の銀行の収益悪化問題に対する効果は限られています。日銀幹部は今回の政策変更後に、長期金利の変動幅の拡大は認めるけれども、長期金利の誘導を引き上げるわけではないと強調しています。金利収入はほとんど増えませんから銀行経営の苦しさは変わりません。今回の政策変更は後者の問題に焦点を当てたものです。

 しかし、市場機能の回復は容易ではないでしょう。もともと国債発行高がこんなにも巨大なわが国で、長期国債の金利を中央銀行がゼロ%近辺に誘導することは無理があります。日銀は当初大規模な国債購入で長期金利を抑えました。それによって市場の流動性(取引量)を大幅に低下させ、市場を薄くして長期金利を日銀がコントロールしやすくしたと言えます。金利をゼロ%に誘導しながら変動幅をプラスマイナス0.2%の幅に抑えるというコントロールが出来るのはその結果でもあるはずです。

 だとすると、そのコントロール性を維持しながら市場機能の回復を両立させるのは矛盾することになります。本質的には長短金利操作も国債の大量購入も止めることが市場の機能回復につながるはずで、日銀の新政策は実際には非常なナローパスだと思います。

政府は早期のインフレ目標達成にこだわっていない

来年は4月に統一地方選、7月に参院選があり、秋には消費税引き上げも予定されています。それも含めて日銀は動きにくいのでしょうか。

加藤:そういった政治日程を考慮すると、日銀が副作用対策としての金利水準の引き上げに事実上動けるのは今年10月か来年1月の決定会合あたりかと思っていました。しかし、今回の金融政策決定会合で日銀は、来年の消費税率引き上げの影響を考慮しながら現行の金利水準を「当分の間」続けることを約束するフォワードガイダンスを導入しました。市場が近い時期の利上げを織り込んで円高が進むことを避けるための措置です。

 来年の消費税引き上げの影響については、日銀は2014年ほど大きなものにならないと見ているようです。前回のときは、消費者は2回分の計5%の税率引き上げを見込んで駆け込み需要を強めたため、反動も大きくなりました。また、増税後は社会保険料の引き上げも重なりました。今回は2%ポイントの引き上げだし、食品については軽減税率も導入されます。また、政府は引き上げ後の消費の反動減対策も打つようですからそこもある程度抑えられると思います。

 しかし、フォワードガイダンスを宣言してしまいましたので、たとえば、世界経済の上振れで原油価格が高騰し、少々円高になる方が望ましいといった状況にでもならないと、消費税率引き上げ前の金利水準の引き上げは難しいと思われます。

日銀が政策変更と同時に公表した2020年度の物価見通しは1.6%。当初から掲げてきた2%のインフレ目標はこの先どうするのでしょう。

加藤:政府は今は早期のインフレ目標達成にこだわりを持っていないのではないでしょうか。最近はあまり言わなくなっています。ただ、円安・株高の障害になることは困る。そうでなければ多少の政策変更はいいということだと思います。

 一方で日銀は、異次元緩和開始以来の金融緩和手段のほとんどを、インフレ目標が達成されるまで継続するオープンエンド式としてきました。しかし、これまで述べたように、その効果は確認されず、逆にやめるきっかけがつかめないという厳しい現実に直面しています。

 2016年9月の長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策は、それまで短期で物価目標を達成しようとしていたのを持久戦に変えたといえます。だが、その先が見えなくなっているのです。この持久戦をどう変えていくのか見せないといけなくなる時期は次第に迫っているのではないでしょうか。

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