7月末の金融政策決定会合で日銀が導入した新政策は専門家の間でも評価が分かれる。長期金利のゼロ%誘導を維持しながら変動幅を従来の倍のプラスマイナス0.2%に広げるなど、政策の“柔軟化”を図った。代表的な日銀ウォッチャーの一人である東短リサーチ社長チーフエコノミストの加藤出氏はどう見るのか。

7月末の日銀の政策変更について、「『引き締め」でも『緩和』でもないニュートラルなもの」、あるいは「事実上の正常化第二弾」など見方が分かれます。どう見ていますか。

加藤出・東短リサーチ社長チーフエコノミスト(以下、加藤):基本的には日銀は八方ふさがりにあるということだと思います。異次元の金融緩和を5年数カ月続けましたが、国債を大量に買い入れる「量の緩和」は行き詰まり、2016年9月に長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策を導入しました。量の緩和から長期金利をゼロ%に誘導する政策に変えましたが、それでもインフレは思ったように進みませんでした。

加藤出(かとう・いずる)氏
東短リサーチ社長チーフエコノミスト。1988年4月、東京短資入社。金融先物など短期市場のブローカーとエコノミストを兼務した後、2013年2月より現職。マネーマーケットの現場の視点から日銀、FRB、ECB(欧州中央銀行)、イングランド銀行、中国人民銀行などの金融政策を分析している(写真:清水真帆呂、以下同)

 異次元緩和はさらに長期化が必至となったわけです。しかし、一方で副作用が大きくなった。特に金融機関の収益悪化は厳しく、それに対処しようとすると金利自体を上げなければならなくなります。でも、そこには踏み込めない。インフレ目標を柔軟化しない限り、周りは完全にふさがれた状況です。

元々、副作用があることは言われていました。なぜ急に気にし始めたのでしょうか。

加藤:日銀が重視するコアコアCPIという物価指数があります。価格変動の大きい生鮮食品、エネルギーを除いたものですが、今年6月は前年比でたった0.2%、3カ月連続で下落しました。これだけの大規模緩和を5年あまり実行し、世界経済も好調な中でこうした数字が続くことで日銀は政策効果に自信を失ってきたのではないでしょうか。そこに長期国債の取り引きがほとんど成立しない日が頻繁に出てくるといった市場機能の深刻な低下が目立つようになってきたため、多方面から副作用への批判が高まり、無視できなくなったということではないかと思います。

新政策は非常なナローパスになる

米国ではドナルド・トランプ大統領がFRB(連邦準備制度理事会)の利上げ姿勢を公然と批判し始めています。これも影響していますか。

加藤:FRBは今年既に2回の利上げを実施し、さらにもう2回引き上げると予想されています。来年は3回程度の利上げが望ましいとFRBの主要幹部は今は見ているようです。日銀も世界経済がリセッション(景気後退期)に入るのはしばらく先と予想していますが、トランプの“貿易戦争”が世界経済の減速を早めたり、彼がFRBの政策に強く介入すると、FRBが利上げを早めに停止するリスクが顕在化します。もしそうなると、日銀が政策調整を実行できる期間は短くなります。米国が利上げをしないのに日本だけが実行すれば円高になるなどとても難しいからです。

 それを見越せば「動けるときに動いておこう」と判断した可能性はあります。