生活を立て直すのは難しい、他者を頼ることが必要

ゴミ屋敷というと高齢者のものというイメージがありますが、セルフネグレクトは若い人にも起こり得るのでしょうか。最近では、元女優の川越美和さんが35歳で孤独死していたという報道があったとき、「セルフネグレクトだったのでは?」という声もありました。

:セルフネグレクトには、きっかけがあれば誰でもなり得るものです。近親者が亡くなるなどのつらい経験があったり、仕事のストレスで疲弊したりして、生きる気力がなくなり人に助けも求められなくなってしまったら、年齢は関係ありません。

 高齢者のセルフネグレクトとは異なり、若い方の場合は比較的きちんとした身なりで普通に会社にも通っているケースがあります。こうした人は毎日通勤しているので、孤立した高齢者とは状況がまったく異なるように見えるかもしれませんが、実際には仕事のストレスを一人で抱え込んで疲弊し、精神的に孤立していることもあるのです。私の経験では若い方の場合、人のケアをする仕事や感情労働をされている方、人間関係のトラブルを抱えた方が比較的多いように感じています。おそらく、過酷な仕事で身も心もくたびれてしまうためでしょう。

 また、糖尿病を患っている方がセルフネグレクトになることも、相対的に多いようです。数年前に行った私どもの調査では、セルフネグレクトの人の約1割が糖尿病の方でした。おそらく、常に「だるい」「疲れやすい」という症状があるほか、食事療法が厳しいといったことも関係しているのではないかと思われます。

 いったんセルフネグレクトの状態に陥って生活が破綻してしまうと、独力で生活を立て直すのはなかなか難しいもの。人を頼ることが重要です。繋がりを持っている人たちに相談してほしいと思います。まずは家族に。それが無理ならばSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だって利用してほしいと思います。親しい人に相談してみれば、何とか生活を立て直す糸口が得られるかもしれません。

若い人の場合、過酷な仕事から来るストレスにより生活が乱れてセルフネグレクトになるケースが少なくない。

セルフネグレクト増加の背景にある、社会構造の変化

セルフネグレクトやゴミ屋敷の増加の背景には、一人暮らし世帯の増加、家族との結びつきの希薄化、といった社会環境の変化もあるのでしょうね。

:確かに、かつては三世代同居といった住まい方が一般的でしたし地縁による協力関係もありましたので、孤立して精神的な危機に陥ったり、ゴミ屋敷化したりする前に何らかの手を打てていたのでしょう。特に同居した家族からサポートが得られやすい環境にありました。でも、もはやその時代に時間が巻き戻ることはありません。

 一人暮らし世帯の増加のほか、日本人の平均寿命の伸長、貧困者の増加、介護保険などの制度の複雑化、ゴミの分別の難しさなども背景にあるでしょう。結局、セルフネグレクトやゴミ屋敷問題は、現代社会の映し鏡と言えるのではないでしょうか。

「人権」の問題だという意識を社会で共有してほしい

今後われわれや行政、政治は、この問題とどのように向き合っていけばよいのでしょうか?

 とてもつらい環境に置かれたら、誰だって生きる気力を失ってしまう可能性はありますよね。だからこそ、まず、日経ビジネスオンラインの読者の方には、身近にそうした状況に陥った人がいるのに気づいたら「他人事」だと思わないでほしいのです。そして手を差し伸べてあげていただきたいし、それができなければ行政に連絡してあげてほしいと思います。

 一方、行政側には、地域の民生委員や住民ボランティアなどが、孤立している人を発見し支援する「見守り活動」を強化していただきたいと願っています。そして、さきほど申し上げた足立区の「おせっかい行政」の例のように、あらゆる地方自治体の方々に「本人支援」に力点を置いた援助をお願いしたいです。

 政治家の方々にはセルフネグレクトを法的に定義していただきたいと期待しています。具体的には、セルフネグレクトを「高齢者虐待防止法」の一類系に加えていただきたい。自分への虐待(セルフネグレクト)も虐待の一つとして法的に定義されれば、行政による支援の手がおよぶ範囲も広くなりますから。

 そして、セルフネグレクトやゴミ屋敷問題は「人権」や「生きる権利」の問題であって、他者への虐待と同様に誰もが積極的に対応すべき問題なのだという認識を、もっと多くの人に共有していただきたいと願っています。