そうした状況で、石井さんはその背景にある「悪夢のシステム」を暴き出します。タイにはなかった「マフィアによる物乞いビジネス」が、そこには間違いなくあった。1年に一度、マフィア達は人さらいの旅に出て、年間100人以上の赤子をさらってくる。赤子はムンバイ市内にあるいくつかの“コロニー”に割り振られ、昼間は一般の物乞いに、悲惨さを演出する“レンタチャイルド”として貸し出され、夜はコロニーに暮らす売春婦達が面倒を見る。そして5歳になり、レンタチャイルドとしての価値がなくなると、“物乞いとしての訴求力”を高めるため、人工的に障害を負わされる…。読んで思ったのは、「何故こんなことをするのか。薬でも何でもいいから他の旨みのあるシノギをすればいいのに」という怒りでした。

石井:やりたくてもやれないんです。彼らは本当に底辺の、底辺のマフィア。もっと言えばマフィアというより路上生活者に近い。障害者ビジネス以外に食う手段がない。

警察は?

石井:警察は他にやることが多い。街全体の治安維持を優先すると底辺マフィアの取締りなど後回しにされてしまう。

進む“物乞いビジネス”のグローバル化

手足を失った元・レンタチャイルド達はどうなってしまうんです。一生、虜の身なんですか。

石井:底辺マフィアは若者で構成されています。なぜならほとんどの者がドラッグなどで体を壊し早死にしてしまうからです。そうなると年をとった元・レンタチャイルドは彼らにとっては扱いにくい。このため、20歳を過ぎると“独立”が許されることも多いと聞きます。

“独立”ったって…。

石井:もっとも、本に書かれている内容はあくまで15年前の話で、今は、急速に状況は改善されています。昔に比べれば、目に見える路上生活者の数は圧倒的に減っています。

では、レンタチャイルドビジネスは撲滅された?

石井:いえ。当局の取り締まり強化などで都会を追われた彼らは、地方に拠点を移していると考えられます。ただ人の少ない地方部に行くと、物乞いビジネスは成立しにくくなりますから、国境を越えて他の国へ展開している例もあると聞きます。物乞いビジネスのグローバル化ですね。

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