僕も読んでいてそこは凄く感じた。タイの路上生活障害者の方はカンボジアの方より辛そうです。カンボジアより福祉は相当進んでいて、例えば国が「宝くじ」売りという仕事を一応は用意してくれているのに。

石井:もちろん、福祉が発展するメリットも沢山あります。カンボジアでも、すべての物乞いがバイタリティーに溢れているはずはなく、中には、困難を笑い飛ばす強さがない人もいます。そうした人たちは福祉がなければ“自然淘汰”されるしかない。福祉制度が発達していれば、彼らを救うことができます。でも一方で、ある程度発展した国の中で福祉システムに組み込まれてしまうと、自由や夢を持つことが難しくなる。新興国が用意している障害者用の仕事はどれも割に合わないんです。宝くじ売りもそうだし、「演奏家・カラオケ歌手」や「物売り」も生きるだけで精一杯の収入にしかならず、かと言って他の選択肢もないまま、延々と厳しい日常が続いていく。

国が発達すると、路上生活障害者はかえって夢を失う

宝くじ売りも様々な問題があって、買い取り制のため資金がない人は代理販売をするしかない。まとまった宝くじを国から買い受け障害者に卸す胴元がいて、その胴元が売り上げの大半を搾取する仕組みになっている。『物乞う仏陀』でも、全盲のソンボーンさんが、手首のない妻と、宝くじを売り歩きながら街を彷徨するシーンは悲惨でした。

石井:それでも、福祉政策の恩恵を受けられている人は、「まだまし」とも言えます。不法移民など国のセーフティネットからこぼれてしまう人たちは、もう反社会勢力しか頼れない。

石井さんは、反社会勢力によるタイの物乞いビジネスの仕組みを解き明かしてもいます。そこでは、路上生活者を拘束して収入を掠め取るシノギは存在するものの、住居や食事の面倒を見た上で逃げ出さないように24時間監視する手間を考えるとカネにならないから、マフィアが大々的にやっている商売ではない、という結論になっています。

石井:一般的に想像されるマフィアのビジネスではなく“チンピラの小遣い稼ぎ”ですね。現地で様々な人間に話を聞いた結果、仮に、物乞いビジネスに手を出しても旨みが物凄く小さいことや、普通のマフィアであれば売春や賭博、麻薬で大金を得る選択をすることがよく分かりました。

なるほど。それにしても何で、アジアの国々はあれほど路上生活障害者の方を見かける機会が多いのでしょう。障害者の数自体が多いという統計もありますが、だとすれば、なぜそうなってしまうのか。

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