(聞き手は田村賢司)
英国の欧州連合(EU)離脱で世界に衝撃が走りました。なぜ、離脱しなければならなかったのでしょう。

伊藤:例えば、英国の失業率は約5%で、転職のために自主的に失業している人を考慮すると完全雇用の状態です。英国内の離脱派は、EUにいるために移民を受け入れなければならず、それが彼らの仕事を奪っていると言われますが、マクロ的に見るとそういうことはありません。また、ここ数年、英国経済がインフレも起こさず、成長したのは、移民の労働力が供給されてきた効果でもあります。
ただ、地域によっては単純労働などで英国民と競合し、職が奪われていると感じられるような雇用環境の厳しいところがありました。離脱派の多い北東部などは、そうだったようです。これらの地域の居住者に占める移民の比率は2014年で4~8%程度。ロンドンの36.9%に比べると遙かに少ないのですが、ここ数年の伸び率は大きい。その急激な変化が社会に不満を呼び起こしたようです。ミクロに見ると、状況は違うわけです。
移民コントロールを出来ないのが不満に
仕事が奪われた上に、移民にも手厚い社会保障が給付されたことも離脱派の不満を膨張させたようですが。
伊藤:EUの加盟国は、域内からの移民を自国でコントロールできないことになっています。離脱派はそれに大きな不満を抱いたようです。仕事を奪われている上に、制限も出来ないと考えたわけです。
もちろん、離脱派も経済成長はしたいので、高度な技術を持つ人材などには来て欲しいと考えています。でも、そのコントロールを自分たちで出来ないことに不満を募らせたのです。そして、社会保障についても「移民は英国の充実した保障を目的に入ってくる」と非難していましたから、その点への不満も大きかった。
英国経済への打撃をどのように見ていますか。
伊藤:離脱のプロセスは、最初に英国がEUの首脳会議に離脱の告知をして、離脱協定の協議をすることになります。実際に離脱するのは、その協定が締結され、発効する時か、告知から2年経過した時となっています。つまり、2年間は今の状態が継続するわけで、直ちに離脱ということではありません。その意味では、今の段階ではすぐに激変が起きるとはいえないかと思います。
離脱協定にしても、英国民以外で英国に居住している人や、英国民で他のEU加盟国に住んでいる人のEU法上の既得権をどう扱うかといった問題などさまざまなものがあります。かなり手間のかかる協議になるはずです。
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