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斗鬼:それはそうです。非常に危険な場所が残っているのは事実です。

それに今の日本は、当時の英国に負けず劣らず効率化が要求されています。そうした状況での片側空けの廃止は働き方改革に逆行する、という主張もあります。電車で移動する際の駅での乗り換え時間はビジネスで最も無駄な時間の1つです。大切な商談や打ち合わせに遅れまいとエスカレーターを歩きたいと思うビジネスパーソンの気持ちも分かる気がするのですが…。

斗鬼:でもだからと言って、「片側空けをこのまま続行すべきだ」という主張はいかがなものかと私は思います。今現在、不安を感じながらエスカレーターを利用している高齢者の方々などはどうするのですか。

万一にもぶつからないように左側(東京の場合)にしっかり寄ってもらうとか、本当に片側空けが怖い人はエレベーターを有効利用してもらうのはいかがでしょう。海外では、高齢者にエレベーターの利用を推奨している国もありますよね。

斗鬼:それは「強者の論理」だと私は思います。ロンドンで片側空けが始まったのは戦時体制下、大阪は万博前後の高度経済成長期、東京はバブル期です。いずれも効率重視で弱者への配慮などほとんど関心がない時代で、強者の論理が最優先された時期。その象徴の1つが片側空けだと私は考えています。

「俺たちが怖いから歩くな。でも効率は上げろ」も一方的?

しかし何をもって強者、弱者とするかは難しい。安定した資産を持ち年金生活している高齢者は、社会保障が揺らぐ中で必死に働いている若者たちから見ればむしろ強者とも言えませんか。仕事をしていればどうしても急がねばならない場合もあります。「俺たちが怖いからエスカレーターは歩くな。でもそれ以外では効率を上げて働き、年金の原資をしっかり納めてくれよ」ではそれこそ強者の論理で、納得できない若者がいてもおかしくありません。三田駅で怒鳴られた女性も憤懣やるかたない様子でした。

斗鬼:体力の衰えた高齢者が弱者というのと、若者が経済的弱者というのは、次元の違う問題のように思いますが、「全面的に片側空けを廃止すべきだ」という主張にも問題がある、という点については同意します。

だとすれば先生、片側空け問題はどう決着を付ければよいのでしょう。

斗鬼:一律に廃止するか続行するという二元論ではなく、使い分けることが大事だと思います。まず以下の場所では、片側空けは廃止すべきです。

①デパートやショッピングセンター、文化施設、観光施設など急ぐ必要のない場所
②階段がすぐ傍にある場所
③長いエスカレーターの場合

 そして階段が近くになくても④エスカレーターが複数ある場所は、片方を「片側空け」にする。これで問題は大きく改善します。