やる気をそぐ「ガラスの天井」

いくつかの調査で、日本企業の海外法人で働いている現地の社員の満足度が低いという結果が出ています。杉田さんが、今言ったことと関連しているのでしょうね。

杉田:はい。よくガラスの天井と言われる問題です。現地の社員はあるところ以上は昇進できないという。やっぱりローカルの人間の方が本当に実力がある、あるいは実力を付けさせてやるんだったら、同じレベルであっても、ローカルの人間を上に置くべきです。どんどん日本人を置いてポジションを取って行ったら、ローカルの人間はその会社にいようと思わないし、自分の将来が見えないですよね。

しかし、欧米企業にもガラスの天井があるのではないですか。

杉田:ただ欧米企業の場合、現地社員にもこういうキャリアの可能性があるというのが、みえやすいのです。例えば、グローバル人材のプールに加わることになる、つまり他の国で働けるといった機会が現地の社員にも開かれている。日本企業でも海外で上手くいっているところは、欧米的な洗練されたルールや仕組みになっているわけではなくても、ローカルにいる人間たちに大きなチャンスを提供しようということを、本気で考えています。

ボストン・コンサルティング・グループと、スイスのビジネススクールであるIMDが最近共同で行った調査で、海外展開したいという希望と、それに対してどれだけ準備ができているかという自己評価を経営者に聞いています。「希望」と「準備」のギャップが一番大きいのは、日本企業だそうですね。

杉田:そうです。ものすごくチャンスがあって、グローバルにもっと出ていきたいという気持ちが強いんだけれども、では会社にそれだけの能力があるか、準備ができているかということにおいては、全くできてないという自己認識があるということですね。このギャップをどのように埋めていけるかということになると、これまでお話してきたようなことがヒントになると思うのです。物づくり系のところは、日本人が入ってきちっとやると品質水準は上がります。しかし弱いのは商品の流通網を育てながら組織化して、どう運営していくのかという部分。そして、現地の人材の意欲を高めて自社につなぎとめるような組織マネジメントの部分でしょうね。

 この調査は何年かやっているのですが、このギャップはあまり縮まってこないのです。これを埋めるための重要ポイントが何なのかについて、経営者の理解がまだ足りないのかもしれません。

杉田さんは、日本企業の海外展開の特徴として現地法人に対して「手を突っ込みすぎか、放任主義かのどちらかになりがちだ」という指摘をしています。M&Aを実施した場合などを想定した話ですか。

杉田:M&Aじゃなくてもあります。特に新興国に入っていった場合、マーケットの環境も消費者も違うのに、日本企業が持っている強みをもっとアピールするべきだと考えがちですね。しかし日本製品のクオリティーといっても、日本人が必要だと思うクオリティーと、別の環境におけるクオリティーでは定義が違うはずです。手を入れ過ぎる理由は、やはり日本におけるそれなりの成功体験があるからでしょう。これが自分が成功してきたポイントなので、これをやってみたらどうなんだという、お節介になるわけですね。一方、放任主義になってしまうケースは、全く分からないマーケットなのでとか、さっきの逆で手を入れ過ぎるとビジネスを失敗させるといった思いからでしょうね。それともう1つが単純に、まだ事業が小さいので、本社サイドが興味がないということもあるでしょう。現地法人のトップの人がよく言うのは、日本の社長や事業部門の責任者を現地に連れてきて市場の可能性を実感してもらうことが重要だという話です。

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