欧米のパワーゲームにどう対抗するか
欧米大手の消費財メーカーがアジアでの存在感が高いのは、もちろん進出から歴史が長いということもあると思いますが、そのほかに彼らの戦略の特徴はありますか。
杉田:米国系だけでなく、ネスレやユニ・リーバなど欧州系も強いですね。傾向的に欧米系は、やはり規模が大きくて、市場の中で一気にシェアを取りに行くために、いわゆるパワーゲームをします。ものすごい資金を突っ込んで、下手すると10年どころじゃなくて、収益が生まれなくてももっと長期的視点で、エリアポートフォリオの一環として市場開拓を続けるのです。エリア内の他の地域で莫大な利益を上げているので可能なのです。それぐらい先行投資でブランドをつくるとか、生産や流通網をつくるということをやります。飲料の「ボトラー」のマネジメントなどもその一例ですね。
それからもう1つが、欧米大手はグローバルブランド、グローバルプロダクトというものをいくつかの価格帯で持っていて、それらを、各国市場ごとにカスタマイズすることで投入しようとします。どちらかというとグローバルの規模を背景に、コスト優位性みたいなものを最大限生かして戦うという傾向がとても強い。これもある種のパワーゲームですね。
日本企業が正面から戦いを挑むのは難しそうですが、一方で、タイやインドネシアでの味の素や、ユニ・チャームなど成功している例もありますね。
杉田:ええ。日本では、欧米のトップ企業と同じパワーゲームをやって勝てる企業はないと思います。しかし逆の言い方をすると、ローカル市場ごとに、深くマーケットに入っていって、そこのローカルの構造に合わせて商品を設計すること、一つ一つのマーケット最適な物を作っていくということが日本企業はすごくたけていると感じます。欧米ジャイアントとは違う戦い方をうまく構築できた企業は、そのやり方を別の国でも適用しています。味の素やユニ・チャームなどはその好例だと思います。日本企業一般で言うと、ローカルに対応した物づくりの力はあるのだから、先ほど言った流通やマーケティングを含めた、経営の手法を確立して、さらに広く横展開していけるようになれば、もっと強くなるでしょうね。
もうひとつ、日本企業の海外展開の課題として指摘されるのが、人材マネジメントですね。
杉田:そういうところもおそらく欧米大手のほうが長けている部分が多いのではないでしょうか。人材の採用、育成の仕方も、日本企業よりは一般的には優れていると思います。そして大切なのは企業の理念やビジョンなのです。あるマーケットの中で自分たちは何を成し遂げたいと思うのか。自分たちはどういう存在を目指すのか、といった理念やビジョンを、ローカルの人材ととどこまで共有できるのかというのが重要なのです。日本企業でも、何度も失敗を繰り返して、苦労して成功したところは、こうした理念を共有することの重要性を理解しています。
何となく一般論で、強い人材を採ってこようと思うと、お金が高くて日本企業はそこまで給料を払えないとかいうじゃないですか。あるいは給与で引き抜かれちゃうので、なかなか難しいんだよとか。そんな単純なものではないのです。そのマーケットにおいて、どう一緒になって大きくなっていくのかという感覚が共有できるかできないかというのが、人材の採用にも維持にも、とても影響します。ローカルの社員に単に指示を出すということではなく、自分たちはどういうふうに働き方を変えるのかとか、次、何を目指すのかということを自ら考えさせること。これが長期的にその市場で勝ち続けるためには、とても重要だと思うのです。
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